来日したグラスゴーの天才ビートメーカーにインタビュー
ハドソン・モホークが語る音楽ルーツ、ターンテーブリストからプロデューサーへの軌跡
2022.11.25 18:30
2022.11.25 18:30
良い思い出と最悪な経験のどっちもが作品に出ている
──最新作『Cry Sugar』についてお聞きしたいです。終末ものや、滅亡ものの映画に影響されたと読みました。
アメリカに引っ越したこともサウンドに出ている。ヨーロッパで育った人として、アメリカに引っ越したのは大きなカルチャーショックだった。君も感じたことあると思うけど、外国に引っ越すと、しばらくそわそわしていて心が落ち着かない。当時、あまり精神的にも良い状態ではなくて、感情がアップダウンすることがあった。それで久しぶりに表舞台に出て音楽を作ろうと思ったとき、過去数年の良い思い出と、健康問題などをふまえた最悪な経験をどっちも持っていたから、それが作品に出ている。
──6年前に引っ越したということは2016年ですよね?
2016年はちょうどトランプが就任したときだったから、単にアメリカが元々こういう国なのか、その近年で悪化しているのかがわからなかった。『Cry Sugar』は2019年頃に制作を開始したんだけど、アメリカに引っ越して経験した感情を整理して、消化しようとしていた。感情的に良い経験もしたし、圧倒された気持ちもあった。多分音楽にもにじみ出ているかもしれない。『Cry Sugar』では、そのような感情を引き出すようなコードを使おうともしたし、あまり綺麗じゃない、悪い瞬間もあると思う。
──落ち着かない雰囲気と、落ち着いている部分のいいバランスが作品としてはあると思います。
そうだったらいいな。
──過去の作品とかに比べてヒップホップからの影響が強い曲が多いと感じました。
意識的にそうしていたと思う。自分が子供の頃から好きだった全ての音楽を反映させたものにしたかった。僕のソロ作品を知らないで、TNGHTの音楽しか聴いたことない人たちに「あのスタイルしかできない」と思われたくないって感じたんた。だから10代の頃から好きだった音楽とか、20年分の影響を出そうと思った。
今では感じないけど、前作を出した当時は“トラップ・プロデューサー”とか“EDMプロデューサー”とか言われていて、そう捉えられるのが嫌だった。自分からは一言もそんな言葉使っていないし、僕たちはラップビートを作っていたつもりだった。だから意識的に昔から好きだったものを今作に入れ込んだんだ。
──今カムアップしようとしているプロデューサーたちにアドバイスはありますか?
一番ポピュラーなことじゃなくて、自分がやりたいことをやるのが良いときもあるってことかな。すごく人気なものでも、5年ぐらいで人気じゃなくなるからね。もし自分がやりたいことが、今の世の中の人たちが好きなものじゃなかったとしても、やめる必要はない。もしそれに対して強い気持ちがあるのであれば、やる理由はそれだけで充分だ。「今人気だから」という理由で何かを作るのではなく。
あとは、これは自分も苦労したことなんだけど、何かを完成させられなかったとき、そんなに自分を責めなくていいってことかな。僕も何年間も「なんも完成させられない!くそ!」って焦ったときがあったけど、それは普通なことだって誰も教えてくれないんだ。「自分が作るものは全部最高!」って時期もあれば、「自分が作るものは全部クソ」ってなる時期もある。それは普通なことだし、そんなに自信をなくさなくてもいい。