関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ! 第7回
ジェイソン・ステイサムという俳優に酔いしれる『トランスポーター』
2022.11.13 12:00
2022.11.13 12:00
ジェイソン・ステイサムという俳優
彼はとにかく体がいいんですよ。もともと高飛び込みの選手だったので、背中がすごく綺麗。そして顔が渋い。いい男なんだけど、ブラッド・ピットとかジョニー・デップのような甘い系ではなく、栗焼酎みたいな辛口なんです。ピリッとしてね。
そしてアクション。『トランスポーター』はカーアクションと肉弾戦の混合が魅力的です。やはり“アクション”にはいろんな種類があると思うんです。まずは、格闘。格闘もボクシングを中心としたやつや、カンフー、そして例えば山を登っていくような身体力を見せるタフなアクションと幅広くあって、他にもアクションの種類は多岐にわたりますが、なかでもカーアクションは見逃せないですよね。特に本作は南仏の街並みも相まって、映画のタッチが明るくて見やすい。
ステイサムの格闘シーンに関しては、動きが本格的なんですよ。それは彼の体幹が強いから。やはり付け焼き刃ではないんですよね。他の俳優は2~3ヵ月稽古した、とかありますが彼は実際強いんじゃないかなって思わせる動きが良い。体の作られ方や筋の入り方が全然違うし、高飛び込みだから股関節を含めて体全体が柔らかくて足が上がるんですよね。スタローンもザ・ロックも上半身のガタイががっしりし過ぎていて、彼らからは蹴りが出ないんですよ。そういう意味では、ステイサムは蹴りが出せる人なんです。あそこまで綺麗にハイキックを出せる西洋人のアクションスターってあまりいなくて、彼はそこの部分を補っているように感じます。僕らが好きなキックを多用する総合格闘技ができるのは、ステイサムなんですよ。実際彼は強いと思うし、歳を重ねるにつれてもっと体ができてきている。
178センチという身長は決して向こうでは「背が高い」わけではないけど、彼は背が低くも見えない。おそらく顔が小さいのでしょうね。あと、スーツがとにかく似合うんですよ。先に話したクレイグも似合う細身のタイプですが、あの人は逆に『007』をやるにあたって鍛えさせられたらしいです。でも、ステイサムは元々の体だから。そこが、彼の持つ凄みですよ。彼の肉体美も映画の魅力の一つですね。
ステイサムは『トランスポーター』以降もいろんな作品に出ていますが、一貫してアクションをしているのが偉いですよね。僕は勝手に、彼はチャールズ・ブロンソンの後継者だと思っています。『メカニック』とかも良かった。同じようなタイプの作品に出続けるという点でもブロンソンに似ているなと思います。
そんな中で初期の出演作である『トランスポーター』はシンプルで、あんまり悩んでないですよね。2010年以降の『SAFE/セーフ』とか『ハミングバード』では悩んでいる役柄でしたが、そういう部分でもいい意味でステイサムが演じる役に人間味が加わってきた。それをやりつつ『エクスペンダブルズ』みたいにただ暴れる映画もある。僕は彼の出演作は全部観ています。映画界に欠かせない存在だし、何回でも彼の作品は観られるんですよね。
ただ、『キャッシュトラック』は久々にガイ・リッチーとのタッグだったので、すごく期待して行った分、ちょっとダメでした。それでもステイサムが出ている映画は、優、良、可、不可で言うと必ず良まで行くんですね。そこがすごいよね。それはもう、スターの持つ力ですよ。昔、勝新太郎さんがね、ライバルの市川雷蔵さんに「らいちゃんが出ているとさ、画面がいっぱいになるんだよ」って、「らいちゃんが出ているだけで持つんだよ」って絶賛していました。俳優の絵力って大事ですよね。ニコラス・ケイジもそういう強さを持っている俳優だな。彼が出ていると、どんなに馬鹿みたいな映画でも面白く見える。
改めて『トランスポーター』があれだけヒットして、今日まで愛されている映画になったのは、やはり“運び屋”という魅力的な職業、そしてルールを作っておきながらそれを破ってしまう主人公の揺れ具合と、ステイサムの肉体美と年齢がちょうど良かったこと。全てが重なったことで、最高の映画ができたからだと思います。車の運転がうまいのも魅力だし、あのフランス人の刑事のようなキャラクターがひとりいるだけで映画が柔らかくなるので、そういう登場人物が出ているという点でも良いですね。そして何より、ステイサムの体幹の強さが前面に出ている作品。1作目のヒロインが、彼の裸を見てその気になっちゃう気持ちも理解できるんです。