関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ! 第6回
タランティーノに謝りたくなった『イングロリアス・バスターズ』
2022.10.16 12:00
2022.10.16 12:00
関根勤が偏愛するマニアックな映画な語る連載「関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ!」。第6回目は2009年に公開された映画『イングロリアス・バスターズ』。
1944年の第二次世界大戦中、ドイツ軍占領下のフランスが舞台となる本作。「ユダヤ・ハンター」の異名で知られるナチス親衛隊のランダ大佐によって、家族を殺され命がけで逃げた少女ショシャナ。大人になった彼女は、思わぬ偶然でランダ大佐と再会することに。一方、同じフランスにはユダヤ系アメリカ人8名からなる秘密特殊部隊はドイツ軍兵士を見つけ出し、血祭りに上げていた。「バスターズ」の異名で知られる彼らの目標は、もちろんアドルフ・ヒトラー。そこにイギリスからのスパイも加わり、彼らとランダ、そして復讐を誓ったショシャナらの思惑と“計画”が交差していく……。
鬼才クエンティン・タランティーノの監督7作目であり、のちの『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012年)や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)にも見られる“歴史改変もの”としても知られる一作。第82回アカデミー賞で8部門にノミネート、ランダ大佐を演じたクリストフ・ヴァルツが助演男優賞を受賞したなど、高く評価される本作をはじめとするタランティーノ作品の魅力を語ってもらった。
第6回『イングロリアス・バスターズ』
クエンティン・タランティーノにハマったきっかけは、確か『パルプフィクション』ですね。あれを観てびっくりしたんですよね。まず、ストーリーがよくわからないけどなんか繋がっていて、ブルース・ウィルスが変な役をやっていた。かっこいい役ばかりの彼が「この役、OKしたんだ……」ってなりました。それでまた、ジョン・トラボルタが本作で復活していて、かっこよかったですね。あの踊りは映画史に残るものだと思う、それで心臓に注射を打ったりとか、拳銃が暴発したりもう大変。今まで観た映画の中でわけがわからない! ごった煮みたいな映画という印象でした。そしてトラボルタとサミュエル・L・ジャクソンの2人がかっこいいの。そして余計なことばかり言うでしょ? あの無駄なセリフ。内容には必要なさそうに思えるし、進行にも必要ないけど、それが味となって映画に付加価値が出てくるんですよね。あれをやろうとして失敗する監督って、いっぱいいます。余計なこと言ってね、それが全然生きていない。しかし、クエンティン・タランティーノのものは生きてくる。この違いはもう完全にセンスでしょうね。『ジャンゴ 繋がれざる者』の時も、覆面を作って目の位置が違うって言ったら「女房が一日かけて作ったのに! もう作らねえ!」とかずっと話している。あれ、全然ストーリーに必要ない会話ですよね。でも、良いんですよ。そこがすごい。彼にしかできない、まさに“タランティーノ節”と言われるものだなと思います。
そこで、今回僕がそんな彼の映画の中から『イングロリアス・バスターズ』を選んだのは、僕が唯一見逃していた作品だったから。公開時、スルーしてしまったんですよ。それまでずっとタランティーノの映画は観てきましたが、本作が公開された時ブラッド・ピットが出演していて、題材がナチであることを知って、「うわー、タランティーノも結局あれか、売れるとこういうA級の映画撮っちゃうのか」と、申し訳ないけど今回はパスさせていただきます、と次の作品からまた観るのを再開しました。むしろ、その次の『ジャンゴ』は絶対観たかった作品でもある。僕は『続・夕日のガンマン』を観て、サウンドトラックのレコードを買ったんですよ。それがイタリア語のものだったから、耳で聞いて全部カタカナで書き出して、歌っていました。それくらい好きな映画だったので、タランティーノが『ジャンゴ』をやるって聞いて絶対観観に行きたかった。「俺の名前はジャンゴだ」というシーンで「わかっているよ」って返しがもう最高で! しかもオリジナル映画の曲も使っていて、いいなあと思って観ていました。
そしたらある時、タランティーノ全作品の特集をやるお仕事があって、「あ、『イングロリアス・バスターズ』だけ見てない」と思い出しTSUTAYAで借りて観たのかな。そしたら抜群の作品で……画面に向かって、正座して謝りましたもん。この場をお借りしまして、えー……製作に携わった皆様と、俳優の皆様、そしてタランティーノ様、僕の本当に狭い器量の考えで、あなたが一流の方に逃げたと勘違いして申し訳ございません。他の作品に全く劣らない、素晴らしい作品でした……。
いざ『イングロリアス・バスターズ』を観て
もうね、びっくりした、怖くて。特に最初のシーン。フランス人の農家が床の下にユダヤの一家を匿っているところに、ナチのハンス・ランダ大佐がやってくる。隠れていて、いつバレるかわからないのがもうドキドキでね。ハンス・ランダを演じたクリストフ・ヴァルツは本作でアカデミー賞助演男優賞を受賞しましたが、うまかったなあ。その後、『007 スペクター』でも悪役をしていましたね。あの2作で大出世したんじゃないかな。彼の笑顔が怖いんですよね。そんな彼が演じる大佐が逃した少女が復讐をするという物語で、ブラッド・ピットがユダヤ系アメリカ人の軍人、レイン中尉を演じているのですが、下手っくそなフランス語が笑っちゃうんですよね。それでも、怖いキャラクターです。僕が一番怖かったシーンが、地下の酒屋のシーン。ゲームをしたり、訛りが変だとか言われたりするじゃないですか。この時も、いつバレるのかがドキドキ。結局めちゃくちゃ撃ち合ったのが凄かったな。
そういう、“バレるんじゃないか”ってシーンが本作には複数登場していて、そこに恐怖を感じられる。本当によくできていて、脚本も素晴らしい。やはり監督としてはあのナチス問題をスルーできなかったんでしょうね。『ジャンゴ』では黒人における差別問題をスルーできなかった。かっこいいですよね。自分の味を持たせつつ、彼なりに歴史を改変させる。タランティーノ風にしちゃう。それもすごいところですね。
同じくブラッド・ピットが出演したタランティーノ映画として、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』もよかった。あれも、歴史を変えて死ぬはずだったシャロン・テートを救っているんですよね。あの作品のピットもかっこいい。あの時、映画好きな後輩たちと「ハリウッドスターの誰になりたい」って話をみんなで話していたんですよ。ショーン・コネリーもいいな、ただショーン・コネリーは復活するまでに『未来惑星ザルドス』とかやって迷っている時もあったから、あの時期は俺だとちょっと耐えられないなとか、ちゃんとその俳優の人生を歩む前提で話すんです(笑)。 ただ、僕はブラッド・ピットとか、ロバート・デニーロとか、ダスティン・ホフマン、レオナルド・ディカプリオは嫌でした。責任が重すぎる。映画がコケたら批判されるじゃないですか。それで僕はジョージ・クルーニーを選んだんです。ジョージ・クルーニーって、結構出演作が興行的に失敗しているんですよ。でも誰にも怒られないし、すぐにまた役がくる。それでいて『オーシャンズ・イレブン』とかでみんなに慕われていて、プロデューサーとしても活躍している。だから、いいなあって思っていましたが『ワンス〜』を観て、あれだけ避けていたブラピになりたいなって思った。というのも、あの屋上でアンテナを直しているシーン、54歳であの体ですよ。もともと彼は『ファイト・クラブ』の時からそうでしたが、無理矢理つくった体じゃなくて、すごくナチュラルで良い体をしているんですよね。良い年の取り方だし、ヒッピーの奴らが襲ってきた時も余裕で、すごくかっこいい。「あ、ブラピがいいや」って思いました。
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