イナズマロック フェス 2022 特集 第2回
西川貴教ロングインタビュー【後編】──イナズマで得た家族、共に突き進む未来
2022.09.11 18:00
2022.09.11 18:00
言わずと知れた国民的アーティスト、そしてエンターテイナーである西川貴教が発起人となり、2009年よりスタートした『イナズマロック フェス』の魅力に迫る本特集。開催前に西川貴教のロングインタビューを、9月17・18日・19日の開催後には現地の模様をレポート記事としてお届けする。
先に公開したロングインタビュー「前編」では、「滋賀ふるさと観光大使」も務める西川から見た滋賀県の現状、また同フェスのこれまでの主要トピックや抱える課題について語ってもらったが、「後編」では、このフェスを立ち上げるに至った知られざる真意、西川が客観的に考える自身の立ち位置など、今や複合的なイベントへと進化を遂げた“イナズマ”の真髄、そして西川のよりパーソナルな部分に迫ってみた。(インタビュー/庄村聡泰)
140万人が家族
──西川さんにとっていつが転機だったんですか?どういうところに気づきの瞬間があったんでしょう。
2017年に母が亡くなって。これはもうオープンにしてるんですけど、もともとこのイベント自体、地域を元気にしたいという文脈ありつつも、僕の中では2007年、2008年のあたりで母が病気していることがわかって、なんとか顔を見に行きたいけど、このスケジュールの中で週末休ませてください、いつだったら休めますか?って正直言いづらくて。どうしたものかなと思ってたときに、じゃあ地元に仕事を作ろう、となった。ちょうど同じタイミングで観光大使に就任させていただいて。
そんな母が発症から10年待たずに亡くなりました。その翌年2018年がちょうどイナズマロックフェスの10周年だったんです。10年ってよく続けられたなとも思うし。母を想って始めた、本来の目的を失った形になってしまって。僕的には燃え尽きちゃったんですよね、2018年の10周年で。
──初の3日間開催だった年ですよね。
これまでで最大の集客数で、楽屋がみんな嬉しそうな顔してて。終わるならこのタイミングなんじゃないかって思った。僕の中で、10年よく続けられたよって。だって最初の4年は自分たちが100%出資ですから。銀行からすごい目で見られて。だから本当に、よくそこからここまでやって、きっともうお袋も褒めてくれるだろうと思って。終わって事後処理で関係各位にお会いしたり、ご挨拶したりしてたときにも、お会いする方々が口々に「来年楽しみにしてるからね」って言ってくれる。それでも動けなかった自分もいて……来年もこの場所で、と言えなかった。
そのまま年越えて、やる?やらない?てなったときに、地元で年配の方から、うちのイベントには多分来たことがない方なんですけど「がんばってくれてるな、ありがとう、応援してるで」と言っていただけて。母親は亡くしたんですけど、その代わりに約140万(※)の家族を迎えたみたいなイメージに自分の中で変わったのかな。僕は母親を失ったけど、140万人家族がいると考えようと。そうして2019年に向かうことにした。いざ腹を括って次だってときに、コロナだから。そういう意味では2018年からの流れっていうのは、大いに自分に変化をもたらしてくれたのかもしれないですね。
※滋賀県の総人口 1,408,378人(2022年8月1日時点)
──ある意味捧げるべき相手がいた10年と、それを失ったがためにもっと大きなものへの愛に気づいた。愛がスプレッドした状態とお呼びするのが適切か分かりませんが……。
あのまま母が生きながらえてくれていたら、そういう気持ちにはたぶんならなかったと思う。ある種、自分の中でも救いを求めていたのかもしれないですけどね。失ったものの大きさがすごく大きかったから、そこを何かで埋め合わせていく。血縁者以外の家族がいるからと奮い立たせることで大きく舵を取れた。これが14年やってきて一番大きい変化かもしれないですね。
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