ヒップホップで社会を生き抜く! 第5回
今最も熱いラッパーJ.I.Dのカムアップストーリー 夢破れつつも全力を注いだ天才リリシスト
2022.09.04 13:30
J.I.D「Kody Blu 31」
2022.09.04 13:30
「2007」で語られたストーリー
上記では彼のカムアップをざっくり紹介したが、楽曲「2007」では彼の成功への道をさらに見ることができる。アルバム『The Forever Story』のアウトロとして収録されるはずであったが、サンプリングの権利問題で収録が叶わなかった当楽曲では、J.I.DがJ.コールと契約するまでの道のり描かれている。「J. コールのプロジェクトがリリースされた年に自身が何をしていたか?」という年表をなぞり進行していく曲であるが、途中で登場するJ.I.Dの父親の語りにも注目である。
こいつは私の息子だ
学校の寮から戻ってきたと思ったら、タトゥーだらけになっていた
そしてプロにはなれないから、もうフットボールはやらないと言った
教育が全てだと教えていたから、奨学金で大学を卒業するために家を出たのに
帰ってきた息子は自分のやりたいことに信念を持っていた
何かを目指すなら、全力を尽くすように育てたからな
ラッパーになるために戻ってきたことを私は快く思っていなかったから「お前は仕事しないといけない」と伝えた
そしたら彼は「これからやることが、俺の仕事なんだ」と言った
私は「自分がやりたいことをやるために、仕事をしないといけない」と伝え、言い合いになった。
彼は自身を曲げず、「これが俺の仕事だ」とコミットしていた
彼を見て、私は信じてはいた
全力でできないのであればやらないというマインドセットを持っていた
だから何をやっても、全力でやる限りは黄金になると知っていた
父親はJ.I.Dを家から追い出しながらも、彼のやりきる力を信じていたと語る。そこから楽曲はJ. コールに出会うまでのストーリーになる。「とにかくチャンスが欲しかった」とラップするJ.I.Dは、当初はJ. コールのレーベルではなく、アトランタの有名ヒップホップレーベル〈Quality Control〉と契約しようと思っていたらしい。しかしJ. コールは、J.I.Dのなかに何かを見出したようだ。「2007」の最後で、J. コール本人が以下のように語っている。
お前とアース・ギャングをうちのスタジオに呼んだことを覚えている
特に契約しようと思っていたわけではないし、契約したいと思っていたわけでもない
ただお前たちがドープであることは知っていた
だからスタジオに呼んで、ヴァイブスが合えば一緒に制作をしようと思っていた
もし何かが生まれればいいし、何も生まれなくてもいいと思っていた
でも会ってすぐ気がついたのが、「こいつは成功を欲しがっている」ということだった
俺はその目に秘められた熱意に見覚えがあった
あまりにも見覚えがある目だった
成功を欲しがるやつは多い
しかし「ただ欲しがっているだけではなく、そのための努力を進んでやるやつだ」と気がついた
それが何も手に入れることができないやつと
「永遠」に名を馳せることができるやつの違いだ
このように、怪我でフットボール選手になるという夢を一度は諦め、父親に家を追い出されながらも、ラッパーとして成功するために奮闘してきたJ.I.D。J. コールは、J.I.Dの目を見て、昔の自分の目を思い出したのだろう。今では〈Dreamville Records〉のエースとも言える存在になり、Billboard Hot 100 トップ5も獲得した。さらには家族がかつて住んでいた土地を買い戻し、家族に「永遠」に残るレガシーを残した。そんな凄腕リリシストJ.I.Dは、最も偉大なラッパーの1人として今後も名を馳せるだろう。