本間昭光のMUSIC HOSPITAL 第1回 キタニタツヤ(前編)
キタニタツヤと語るバランス感覚、微妙な“ずれ”が生む温度
2022.07.05 12:00
2022.07.05 12:00
DTM的じゃない編曲をできたら、もっとポップスに近づける(キタニ)
キタニ キラキラのさせ方でいうと、今はDTMで作ってる人がプロデューサーでも多いから、上の帯域を稼ぐ方法としてサンプリング素材を貼ったり、何この音?みたいな楽器ではない色んな音を足す風潮があると思うんですけど、昔の音楽家がやってたような生の楽器それぞれの特性を知ったうえで「ここの帯域にはストリングスが入って、この帯域にちょっとだけフルート入るよね?」みたいなやり方をどこで勉強したらいいんだろう?って思ってて。DTM的じゃない編曲をできたら、もっと俺はポップスに近づけるのにって思うんですよ。
本間 すぐ理解できると思う。だから楽典の本とか持ってるけど、たまにしか使わない。
キタニ でもやっぱりあるんですね。
本間 あ、これはいいよ。伊福部昭先生っていう、『ゴジラ』の音楽を作った人の本。(伊福部著作『[完本]管絃楽法』を見せながら)常にこれを見てるわけではないけど、色んな楽器の禁止事項が書いてある。たまに俺も分からなくなるとこれ見るの。「どうだっけ?」って。
キタニ ヴァイオリンを弾いたりされるわけではないんですよね?でも、本間さんは弾ける人みたいな感じがします。フレージングも。
本間 それは色んなヴァイオリニストに相談する。今のJ-POPの流行りのストリングスの書き方なんかしちゃうと、もうめちゃめちゃ細かいし、よくこんなに音域の高低差をつけるな、みたいな感じとかあるんだけれど。でも、本来それは楽器としては正しい流れではなかったりするわけ。生の楽器でやったらキンキンいうだけ、みたいなことになればオクターブ下を効果的に使った方が絶対にいいってなったり。そこから先はエンジニアと相談するんですよ。「倍音をちゃんと録ってくれ」みたいな感じで。だから上の倍音がしっかり鳴るような形で譜面を書くためにはどうすればいいかっていったら、こういう本を見て「なるほど」って。
キタニ その都度しかないんですね。昔「色んな大先生の譜面を見れたんだよ」って本間さんが何かのインタビューで話されてるのを見て、ずる!って思って(笑)。今そういうのを学べるところはないなって。
本間 音楽の仕事を始めた頃はまだ歌謡曲全盛期で、テープレコーダーで同期するしかなくて。8チャンネルにクリックと他のものを全部混ぜる作業をスタジオでやるんだけれども、オリジナルのマルチ音源が24チャンネルかせいぜい48チャンネルしかないから、その中の何の音がどういう成分なのかっていうのが全部分かっちゃう訳ね。で、スコアをもらって「これがこうなってんだ!」っていうのも、意外とシンプルなの、全部。「ドミソ」の3和音だったりするわけよ、ストリングスに関しても。トライアドっていうのもやっぱり素晴らしいことなんだなって。そういうことを今のキタニ君と同じくらいの年齢のときにずっとスタジオで見れたから、それは恵まれてたなと思う。
次のページ