黒子首と庄村聡泰
2022.07.04 00:00
曲って死んでからもずっと残るものだから
──なるほどね。そんな黒子首の音楽を聴いてると、バンドの音楽という側面とは別で、曲調の豊富さが職業作家っぽいところがあるなと思っていて。
堀胃 私がその時々でやりたい音楽が違っていて。2人もやりたいようにアレンジしてくれるので、曲によって全然違うものができているんだと思います。
──みとさんは曲のムードに合わせてアレンジを考えているのか、自分のやりたいムードに合わせてアレンジをしているかだとどちらなんですか?
みと 自分のやりたいようにやりたいようにやることもあるし、曲に寄り添うこともあります。フィルター系のエフェクターを踏んで「それはないわ」って言われることもあります。
──柔軟思考のプレイヤーなんですね。
みと こうしかしないってことはないです。
──そいさんはどうですか?
そい 弾き語りが送られてきて、勝手に脳内でアレンジされた状態に変換されるときもあるし、全然思いつかないときは色々な引き出しから曲に合うアレンジを探すこともあります。ドラマーとしてやりたいことというより、曲全体を調理する方が好きなんです。
──弾き語りが送られてきたときに曲全体のアレンジのイメージが湧くんですか?
そい (得意気に)そうですね!
──これは活字化されたときに(得意気)って書かれるやつですね(笑)。でもこれだけ豊富な世界観をまとめられる頭を持ったメンバーがいるのは強いですね。ドラムに関して、「Champon」のBメロや、「やさしい怪物 feat. 泣き虫☔︎」の1:17のフィルにドラマーとしてジャジーな素養を感じていて。元々そういう素養はあったんですか?
そい 多分なんですけど、昔から椎名林檎さんが好きで。コピーするときに避けては通れない道だったんですよね。専門学校で少し学んだりはしたんですけど、なんちゃってだと思います。
──でもそのなんちゃって具合がいいんだと思います。突き詰めていくと音楽性に影響及ぼしたりしますからね。あと、「magnet gum」のブラスの音だったり、3人の演奏に乗って来る上物の音色の幅広さがすごく印象的だなと思っていて。こういうアレンジって弾き語りベースのフォークロックバンドだと避けがちだと思うんですけど、そこはあげはさんのマインドが柔軟だからできてるんですか?
堀胃 曲って死んでからもずっと残るものだから、曲が一番いい形になることが私の目的です。自分の弾き語りより良くなっている印象だったら全然抵抗はないです。
──弾き語りの時点でしっかり吐き出せている自負がある、芯があるからなんでしょうね。
堀胃 そうですね。メロディーと歌詞は絶対悔いないようにして送っています。
──歌詞に関してなんですが、設定の幅の広さがすごいと思っていて。少年少女のような曲もあれば、「やさしい怪物」のような目線の曲だったり、「静かな唄」のサビには“死刑台”という言葉が出てきたり。それを全て自分の中に落とし込んでいるのがすごく魅力的なんですが、歌詞はどのように作っているんですか?
堀胃 日々生きていて気持ちが動いた瞬間のワンフレーズをメモしていて、そのストックを貯めていって、振り返って改めてそれを書き足していったりしています。色々な人生の色々な感情があるので、それの一つ一つが別人格みたいなメモで。それに映画を観たり、本を読んだり、人と話したりして補足しているので、曲によって違う主人公がいるんだと思います。でも全部自分です。
──なるほど。歌声に関しても伺いたいんですが、声色の使い方もかなりバリエーションがありますよね。ファルセットもかなり出るし、低い音程もかなり得意そうに感じました。
堀胃 実は低い音程の方が得意です。昔は声をダミ声にしていて。
──初期の作品はかなりハスキーな声で歌ってますよね。
堀胃 昔はそのダミ声しか取り柄がないと思っていて、喉を壊してでもこの声で歌おうと思っていました。
──ダミ声とある種の決別を意識したのは何故だったんですか?
堀胃 30年後も歌っていたいので、ダミ声に頼りすぎるのをやめました。あと、ずっとダミ声だと人は慣れてしまって、良いという感覚が薄れてしまうので、ここぞというときに出すようになりました。
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