2026.04.02 18:00
2026.04.02 18:00
いろんな魔法が解けたことを、多くの人は気付いている
──10曲目は「ALK」です。
これはまさにコロナ禍に生まれた曲。ロックダウンが始まってしばらくした頃、カナダの島のビーチにイルカがいて、明らかに人間の営みがスピードダウンしたことによって環境が浄化されている様子を間近で見たことも関係していたかもしれない。以前、この完成版よりも前のバージョンをInstagramにアップしたんですが、当時はもっとクラブミュージック寄りに壊れたエレクトロニカだった。その後ライブでも演奏を重ねたんですが、だんだん歌詞にサウンドが寄ってきて、スケールが大きくなりすぎたりもしましたが、荒木くんが微調整をしてくれて、現状の形に着地しました。私は長い間、自己肯定感が足りなくて、それを表現で埋めようとしてきた30年だったし、本当に、自分に対する呪文のように歌ってきたところもあって。

──ああ、なるほど。
しかも、時間という概念って人間にしか用えないじゃないですか。本来、地球は時間なんて考えていないんですから。そこにはただ命が在って、人間はその物語の中を生きているんだけれど、ネガティブな意味ではなく、しょうがないと思うんですよ。特にやっぱり私も物語のなかを生きていくしかないし、それで自伝のタイトルも『おとぎ話を聴かせて』となりました。
脆弱な贅沢さに育てられてきた私であり私たちだけど、それでも私はそれに決してNoとは言いたくない。すべてはただ私たちが地球で生まれ生きてきたなかでの過程なだけであって、それによって何かを悪くしているとはあまり言いたくないというか。政治にも世界中にもいろんな考え方がありますけど、いろんなことに対してバッサリ乱暴にNoという態度を、もうみんな卒業したほうがよくない?て思うし。大げさに言いたくはないんだけど、やっぱりONENESSでしかないし、愛の態度ですよね。とにかくいろんな魔法が解けちゃったことも、多くの人は気付いているわけだから。
──最後は、生前親交があった坂本龍一さんから託されたメロディから生まれた「Twilight Before Sunrise」です。個人的には「ALK」がアルバムのラストシーンで、この曲がエンドロールのように感じられました。
さっきもお水の循環の話になりましたけれど、坂本さんのメロディから自分がまずイメージしたのはやっぱり地球であり命でした。それはたぶん私が坂本さんの本当に時代を超えたアカデミックな本質をリスペクトしていて、そこに順応したからだと思うんですが。教授ご自身は「フランスの民謡のイメージ」とおっしゃっていましたけど、ある意味ポップだけれど、すごくクラシックなメロディでもあるし。「歌ものは苦手なんだよ」とか「売れるような曲は書けないよ?」なんておっしゃっていましたけど(笑)。
2022年の夏にこのメロディをいただいた頃は本当にひれ伏しちゃって、どうしたものかとしばらく手が付けられなかったんですよ。ノスタルジックな印象を軽減させるのに、ギターフレーズを試したいと思い、荒木くんと西田くんに相談してフレーズを録音してもらったんです。そこからアレンジが見えていきました。ビートに関しては10数テイクもトラックを試しました。私には、生きているうちは遠くに感じていた人が、旅立ってしまったことで妙に近くに感じられたという経験があるんですが……。
──ああ、自分にもあります。
それと似たような感覚でいま坂本さんの不在をひしひしと感じています。この曲に取り組んでいる間も、ずっと教授の魂を感じているような気がしていましたね。それも相まって、目に見えない事柄にこそ、私たちが最も知りたい秘密が隠されているということを歌いたくなりました。やっぱり「目覚める」って難しいことじゃないですか。分離感をなくすことはできなくても、それでも、Noとは言いたくない、自分自身の過去も、いま現在の存在も、可能な限り肯定していたい。そこで必要なのは、やっぱり“赦す”ということなんだと思うんです。
ONENESSという言葉はちょっと宗教的というかオールドスタイルに感じられそうなので私もちょっと言いにくくて、やっぱり“赦す”と同義だと思うんです。だって、いま戦争が起きていて、人を殺している人がいますよね。でもそれも、ONENESSでいうところの“私”がしていることだと言えるのかもしれないわけで。実際にそれをどう赦すのかというのは答えの出ない問いですけどね。
──しかも、それは輪廻とか因果応報という考えにも関わってくるだろうし。
そうですね。それでもこのアルバムを完成させられたことに、いまはとても確かな満足感、達成感がある。自己満足の幸福に満ちています。あとはツアーで皆さんの前で歌ってみて初めて昇華も消化もできると思うし。そこはやっぱりフィジカルに歌手としてステージに立って作品を表現してこそ作品の完成に到れるんだと思うし。根性入れて歌っていかなきゃなって。
──30年目のポップ回帰という旅で、とても美しい場所に辿り着かれましたね。
はい。「やっとだよ〜」って思っています!


