初上演の日本版が教えてくれる“ミュージカルの本質”とは
名作映画のときめきを“いまの日本”で更新する、星風まどか×城田優共演『PRETTY WOMAN』開幕
2026.01.22 20:30
2026.01.22 20:30
理屈抜きに、ときめく時間を信じられる作品
本作はヴィヴィアンが王子様を待っているだけの物語ではなく、それは同時にエドワードが完璧な王子様でないことを意味する。エドワード役の城田は、その佇まいだけで成功者のオーラが漂う。甘いマスクはもちろん、包容力ある圧巻の歌唱力がエドワードの華麗な人生を際立たせるのだが、城田はエドワードが抱える不器用さやコンプレックスも繊細に表現する。財産や仕事で埋め尽くされた心の中には、どうしたって寂しさが生まれる。同じく、自分の生き方に迷い、「ここ!」という居場所を見つけられずにいたヴィヴィアンと惹かれ合うのは必然だったのだろう。

彼がホテル最上階でただじっとしているだけの王子様をやめて成長していく姿も、本作の大きな醍醐味のひとつとなっている。映画ではどこか軽やかに見えたエドワードの生き様が、ミュージカルでは歌と間によって丁寧に掬い上げられる。その“湿度”こそが、本作を単なるロマンティック・コメディにとどめない理由なのかもしれない。
城田は今作、日本版上演台本の翻訳と訳詞も手掛けている。現場ではいつの間にか演出補の役割も担っており、ジェリー氏と日本キャストとの架け橋になっていたのだそう。会見で城田は「天才訳詞家が誕生!と見出しに書いてくださいね」と冗談めいて笑いを誘っていたが、ジェリー氏が太鼓判を押すのも頷ける完成度だ。原曲の響きを重視した言葉選びに、日本語ならではの韻の踏み方、作品の雰囲気を保ちながらもクスッと笑える今っぽい表現と、全編を通して彼のこだわりが光る。主演を務めながら翻訳と訳詞も手掛け、カンパニーの架け橋にもなり……その多面性は、エドワードの有能さにもどこか重なって見え、今作でまた、城田優という表現者の引き出しの多さを改めて思い知らされた。

ヴィヴィアンとエドワードのロマンスが本作の主軸ではあるが、彼らを取り巻く人々も観客を最高にハッピーにしてくれる重要なピースだ。名前からしてハッピーなハッピーマン(spi、福井晶一のWキャスト)は、ハリウッドの人々や観客に「夢は何か?」と問いかける。かと思えば、spiは高級ホテルの支配人として恋のキューピットになったり、高級ブティックの店長になったり。ラップやタンゴも披露し、その多才っぷりをいかんなく発揮。彼が登場するだけで客席が「次は何をしてくれるんだろう」と期待に満ちることとなった。この空気を作り出せるところも、spiの強みといえるだろう。
パワフルさではキット役のエリアンナも負けていない。ミュージカル『SIX』でのアナ・オブ・クレーヴス役も記憶に新しいエリアンナは、心揺さぶるソウルフルな歌声でキットの姉御感を表現。その頼もしい歌声に、ヴィヴィアンが彼女を「親友」と呼び慕う理由が自然と腑に落ちる。彼女の豪快さに背中を押される人も多いだろう。

作中唯一のヒールな役柄であるスタッキーを演じるのは寺西拓人。悪徳弁護士として王道ラブコメにスパイスを足す。timelesz加入後、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの寺西だが、長年培ってきた舞台人としての輝きは増すばかり。「観客の皆さんに作品の中ではしっかり嫌われたい」という会見での言葉通り、持ち前の人のいい笑顔を封印した嫌味な立ち回りで爪痕を残す。物語全体の幸福度が高ければ高いほど、こうした憎まれ役の存在が効いてくる。その役割を全うすることで、寺西は物語の輪郭をくっきりと浮かび上がらせていた。出番はそう多くないが、普段の彼からは想像もできないニヒルな笑みを浴びられるのは、ファンにとってはある意味、ご褒美といえるだろう。

初日前会見で城田は「『ミュージカルってこんなに面白いんだ!』と感じられる作品になったのでは」と手応えを語っていた。シンプルなフレーズだが、本作の本質が込められている言葉だ。細かな理屈を抜きにして、ただ楽しい、ただときめく。その感情に身を委ねる時間こそが、本作の最大の魅力なのだと思う。
日本版初演という“はじまり”の瞬間に立ち会えたことは、この先10年、20年と続いていくであろう『PRETTY WOMAN The Musical』の歴史を思うと、少し誇らしくも感じられた。たった一度きりの日本初演を、ぜひ劇場で味わってみてほしい。



