信頼のタッグが振り返る映画『次元を超える』の制作秘話
“超える”ことで演出はいらなくなる。豊田利晃監督×窪塚洋介の重なる人生が呼んだ偶然の連なり
2025.10.25 17:00
2025.10.25 17:00
偶然の連続が撮影であり、それをまとめたら作品になる
──頭の中にあった創作物が世に残ること自体、ある意味「次元を超える」行為だとも思います。監督はそういった感覚はありますか。
豊田 本来の“次元”の意味は人間じゃ知覚できないところだと思うんですけど、言ってるそれって“チャンネル”だと思うんです。宗教もそのチャンネルのチューニングが合った人たちが信者になったりして。窪塚が言う「自分が作ったセリフのように聞こえる」っていうのも合うチャンネルがあって、僕が窪塚の友人と山登ったのも彼らと合うチャンネルがあって、そのチャンネルが次元を行ったり来たりするってことかもしれないですね。
スピリチュアルなことはあんまり言いたくないけど、テレパシーみたいなこともある気がする。映画の撮影現場で、言わなくても通じ合っているみたいな。僕の映画のキャスティングはそういう人をメインキャラクターに選びます。
窪塚 本当に演出がないんで。この間も対談していて、「一番いい席で観てるお客さんだから、俺は」っておっしゃっていて、なるほどなと。信じ抜いてくれてるし、龍平と俺の芝居がどんなことになるんだろうって一番楽しんでくれている立ち位置でもあるというか。
豊田 松田龍平に関してもそうだし、スタッフもそのチャンネルがみんな合っていたら、何か面白いこと起こるんですよ。偶然のように。偶然の連続が撮影であり。まとめたら作品になって、観客のものになるんだけど、撮影はそんな感じなんです。

──本作の撮影中、チーム全員のチャンネリングが合ったシーンはありましたか。
豊田 やっぱり「芝居を見たい」っていうのがあるから、こういうカットを撮りたいって盛り上がる時もあるし、芝居を撮ってから盛り上がる時もあって。最初の、窪塚と龍平が研究所のテラスでしゃべり合うシーンは、どんな芝居するのかってスタッフもみんな集まって見に来てて。俺も面白かった。
──監督は『破壊の日』(2020年)の時に、窪塚さんと松田さんに対して「日本を代表する役者だと思う」「もう1回ちゃんとぶつからせてみたい」と発言されていました。実際ぶつからせてみて監督は、実際にぶつかってみて窪塚さんはいかがでしたか?
豊田 それは役者同士、思うところは違うと思うけど、まあ皆さん分かっているように水と油じゃないけど真逆なんで。真逆でもないんだけど……違うんだよね。どういう化学反応起きるのかな?っていうのを楽しみましたね。
窪塚 で、どうだったかは内緒っていう(笑)。

──そこは教えてください(笑)。
豊田 カットを割っていこうと思っていたんです。そうすると、たとえば窪塚を撮っている時は龍平は映っていないわけじゃないですか。でもカメラ横でちゃんと芝居してるんですよ。その辺はお互いジェントルマンだったね。
窪塚 お互い本気でいって。そこにある空気を吸うというか、あるものを感じることができるから、抜いたら勿体ないなって。
豊田 龍平はぼーっとしてるんだけど、窪塚とやり合う時はいつも震えてましたね。カットかけるとずっと身体震わしてた。
窪塚 龍平も面白かった。
豊田 本番だけ変わるやつだね。本番前から一人になって徐々にテンション高めてる。
窪塚 龍平と夜に会うことがまあまあ多かったんですよ。『破壊の日』ではすれ違いのシーンがあったけど、対峙したことがないままなんとなく仲良くなっちゃって。誰かのイベントとかパーティーがあった時に、俺より圧倒的に龍平の出席率が高い。思いのほかコミュ力があって、LINEとか聞けるみたいな(笑)。
豊田 確かに(笑)。

窪塚 そういうのできないと思ってたから、「意外にコミュ力あるんだな、こいつ」と。人懐っこいところもあるし、飲んでてちょっとボケてきたりする時もあったり。そういう最初にあった“松田龍平像”みたいなものは夜の場で変わっているんだけど、でもやっぱり対峙した時に、最初に持ってた“松田龍平像”が現れる。それが本体なのか“役者・松田龍平”なのかはわからないけど、対峙することはとても面白かったし、エキサイティングだったし、監督が言うように本当に違うなって。アプローチの仕方もそうだし。どこか似てるんだけど、うまく言葉にできないっていうものを体感できて。結果何が違ったのかっていうのはまだ言葉にできないけど、でもとにかく刺激的でいい時間だったなって思います。
豊田 面白かったのは、窪塚が人差し指でパンってやって龍平が手で受けるとこがあるんだけど、龍平がちょっと遅すぎる。それで窪塚が、「俺の速いから当たってますよ」みたいな。
窪塚 こう、パンパーン! みたいなイメージなんだけど、パーンってやっても龍平は「……」って(笑)。いやいや、もう3発ぐらい入ってるって。
豊田 でもそれを龍平に言うと「いや、俺はこれぐらいがちょうど」って言ってて。
窪塚 言ってた(笑)。あれ、面白かったっすね。
豊田 その時、マジなんだよね。「あ、そうなんだ」って言いながら、「でももうちょっと速い方が嬉しいな」って(笑)。ああいう顔というか、姿を見せるのは本番中だけかもしれないね。
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