2025.10.21 17:00
2025.10.21 17:00
曲が肉体性を持ってるから、よりシンプルな言葉で深いことが言える
──今回、斎藤さんがボーカルで参加していますけど、そういうことができるのも、今話してくれたような心の変化がすごく大きく影響しているんだろうなと思います。彼もすごく強い個性を持ったシンガーですし、そこに対して家入さんもエゴをぶつけていったらハレーションが起きてしまいかねない。でもこの曲はそうではなく、2人の声が溶け合うようにして聞こえてくるんですよね。
そうですね。引き算していくタームに入っているので。「持ってるものでよかったんだ」っていう感じです。でもそれも新しい武器を手に入れたいと冒険したからこそ、本当の意味で「自分でいいんだ」って気づけたんです。生まれた瞬間から「自分でいいんだ」と思ってたら、人生を体験する意味がなくなってしまうじゃないですか。悔しさを味わったり、「自分じゃダメなんだ」って泣いたりすることも必要だったと思うし、迷ったり、時に音楽と離れたいと思ったりしたことも正直あったけど、そういうことも含めてやってきたことが自信になっているんだなって思います。

──そういう意味では今だからこそできたコラボレーションだし、楽曲制作だったんだなってすごく思いますよね。この曲は〈僕は誰で 君は誰で〉と問いかけるところから始まって、最後は〈そう 君と 立ち上がる〉というすごく強い言葉で終わっていきますけど、そこに込められた気持ちの流れは、おそらく家入さんがここ数年で経験したことともすごく近いんだろうなって思いました。だからこそこの曲はすごく肉体性を持ったものになったんだろうなって。
肉体性を持ったものっていい言葉ですね。だから、ドラマのメッセージも内包しつつ自分の曲にもなっていて、ダブルのパワーがこの曲には宿ってる。歌詞を書いてても、よりシンプルな言葉を選ぶようになってきてるなって思うんです。10代の時とか、わかりやすく言うと太宰治とかを読みふける時期ってあるじゃないですか。フランス映画ばっかり観たりとか(笑)。その、その時期にしか出せないきらめきは尊いなって思うんですけど、言葉を借りるとしたら、今は肉体性をちゃんと持ってるから、より伝わりやすい言葉で深いことが言える自分になってきてるんじゃないかなって。
──家入さんはまさに「鏡」と向き合い続けてきたんだと思うんです。家入レオという自分と、そうじゃない自分とが向かい合わせになっていて、その綱引きの中でずっと生きてきた。この曲で歌われているように、その2人の関係性も変わってきたんでしょうね。
うん。本当にそうだと思います。「Mirror」のレコーディングでSakaiさんに「等身大の歌を歌ってほしい」って言われてハッとしたんですよね。「今のレオさんの歌い方はパワーがありすぎて、20代前半な感じがしちゃうから」って。いつもレコーディング行く時は自分の中でルーティンがあって、筋トレして有酸素運動して、体幹入れまくってから歌うんですけど、そう言われて、椅子に座って体幹使わずに歌うっていうのをやってみたんです。そうしたら、その場にいるスタッフとか全員が「めっちゃいい」ってなったんですよ。そういうのもあって、言葉は難しいけど、音楽ってそんな気合いれてやるもんじゃないんだっていう感じもちょっとしてきているんです。私が家で料理作りながら歌っている鼻歌も良いんじゃない?っていう感じがなんとなくあって。洗濯しながらとか、そういう時に歌う生活者の歌がいちばん素晴らしいんじゃないかというのを感じています。

──というか、どちらにもそれぞれのパワーやエネルギーがあって、家入さんは今まで戦うように歌うことしか知らなかったけど、今はどっちも選べるようになったっていうことなんだと思います。
そうです。それをケースバイケースで使い分けていく。今回カップリングに収録した「ラブレター」はBLUE ENCOUNTの田邊駿一さんに作っていただいた曲なんですけど、ライブバージョンだともっとゴリゴリでやってたんですよ。でも今回はNaoki Itaiさんにアレンジに入ってもらって。私、部屋着がかっこいい人っていちばんおしゃれだと思ってるんですけど、そういう感じのアレンジになったなって。
──本当に等身大というか、息をするように、生活をするように歌うということがどんどんできるようになってきてるんだなと思います。そんな状態で、10月24日からは「bulb」と題されたツアーが始まります。
はい。タイトルの「bulb」は球根っていう意味で。中にはそうじゃないものもあるんですけど、多くの球根ってじつは毒を持っているというのを知って……弱さやコンプレックスに水をあげれば花を咲かせることもできるんじゃないかって思ったんです。私が憧れる人たちも、最初から完璧だったわけじゃなく、じつは弱さとか逃げ出したいことから逃げ出さなかったから輝けているんじゃないかなって。私はたぶん人一倍コンプレックスもあるし、いろんなことを考えちゃう部分があるけど、それがあるからこそ歌が歌えてるし、花を咲かせることもできるんじゃないかな、毒を美しさに変えていくツアーにするぞっていう意味を込めて、このテーマにしました。
