映画『火喰鳥を、喰う』では観客を物語に誘う新聞記者役に
「心と身体をつなげるのが好き」森田望智が語る、さまざまな役を演じ分けるためのアプローチ
2025.10.15 18:00
2025.10.15 18:00
踊りは身体に染み込んでいるから、無意識に表れるのかもしれません
──その転機となったのは、どの作品ですか?
『全裸監督』(2019年/Netflix)です。
──なるほど、たしかにセリフが多いですね。
あの作品で演じた役は外見から、外側から生まれたところも多くて。喋り方や服装、仕草をつくっていくうちに、自然と内側もつくられていった感覚があります。でも基本的には役の内面が、その外側にも表れるものだと思っています。内と外はリンクしている、というか。この状態まで持っていけないと、役を生きている実感が得られないんです。かたちだけになってしまう。
──とても興味深いお話です。
なので演じる役が私自身から遠ければ遠いほど苦戦するんです。いつも最初にぶち当たる壁がこれなんです。

──森田さんご自身と役の距離でいうと、『さがす』(2022年)のムクドリはかなり遠かったのではないでしょうか。
あれはまず外側をつくりました。監督から役づくりの上である方の動画を頂き、発言や言い回しを参考にしました。
──すごい。ほかとは完全に逆のアプローチですね。
外側を用意して、内側が動き出すのを待つ。そういうアプローチでしたね。でも役によって、掴み方はいつも違うんです。『龍が如く〜Beyond the Game〜』(2024年/Amazon Prime Video)のアイコは語尾でした 。
──語尾?
アイコの喋り方がうまく掴めなくて、語尾をだらしなくしてみたことで、ようやく掴めたんです。役を掴めないまま終わってしまうこともありますからね。でも、それはそれでよかったりもするんですよね。
──どういうことでしょう?
ときに私たちが不安定になるように、演じるキャラクターそのものが不安定だったりすることがあります。そういった場合、私の役をうまく掴めていない状態が、ポジティブに演技に反映されることがあるんです。たとえば表情とか。だから、役を掴むことが一概にいいものではないなって。
──朝ドラ『虎に翼』(2024年/NHK総合)の花江さんは付き合う時間も長かったですよね。
あれはもう、最初の頃なんてほぼ私なんですよ。花江ちゃんと私はすごく近くて。柔らかそうな人だと思われるけれど、言いたいことをハッキリと口にするところとか。いただいた台本のセリフにはハートマークがいっぱいついていたので、これをどう表現するのかがカギでした。

──そういう意味では『火喰鳥を、喰う』の与沢さんはかなりフラットなキャラクターですが、今後は『ナイトフラワー』の公開も控えていますね。格闘家の役なので、外側というか、身体が重要なのだろうなと。
まさに。あの作品で演じている芳井多摩恵という役は、いままでもっとも私から遠いものです。格闘技の練習に励んで、役とのつながりを身体からつくっていきました。次第に自信が湧いてきたり、ちょっと強くなった気がしてきたり。
──身体を追い込むことで、内面もついてきたと。
ふだんの私は闘うことがないので、誰かに向かってパンチをする感覚が全然分かりませんでした。でも、繰り返しやっていると、だんだんと理解してきて。あれは本当に身体ありきでした。
──身体を扱うこと、身体で表現することに関しては、フィギュアスケートやクラシックバレエの経験が活きてきますか?
うーん、どうなんでしょう……。綺麗な所作が必要なときに、バレエをやっていてよかったと思うのは間違いありませんけど。
──たとえば『全裸監督』で演じていた役でいえば、腕を上げる所作が踊りのようだと感じました。その一瞬の動きに魅せられるというか。
たしかに。内面と外面、心と身体がつながっているように、私の身体と踊りは今でもつながっているのかもしれませんね。そんな気がします。踊りは小さな頃からやっているものなので、私の身体に染み込んでいるんです。だから役を演じる際に無意識のうちに表れるのかもしれません。

──来年の1月から上演される舞台『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は、おそらく身体表現にフォーカスした作品になるんじゃないですか?
演出がフィリップ・ドゥクフレさんですのでそのようになるかと思います。ずっと舞台に立ってみたかったので、いまからワクワクしています。舞台は最初から最後まで役の感情を一連の流れで表現することができますよね。いまの私はまだ持っていない感覚が生まれそうな気がしています。
──新しい感覚ですか。
はい、自分の可能性を広げられそうな気がしているんです。今年は『氷艶 hyoen 2025 -鏡紋の夜叉-』というアイススケートのショーに出させていただいたのですが、ここで一連の流れのお芝居をやったことで、少しだけ新しい感覚が生まれました。もちろん、一般的な演劇作品とは違います。でも、“動き”と“気持ち”の連動性は感じられた。私は心と身体をつなげるのが好きなんでしょうね。
