リーディングミュージカル初挑戦に込める“演じる意味”とは
「学んだことを私立恵比寿中学に持ち帰って報告したい」真山りかが語る、アイドル業への感謝
2025.10.01 19:30
2025.10.01 19:30
自分で“ウサギさんまとめ”ノートを作った
──特に『BEASTARS』は登場キャラクターが擬人化した肉食獣と草食獣なので、人間以上に“本能”の特性が色濃いぶん、理性と本能の振れ幅も大きい。それを効果的に見せるためにも、“歌い手・読み手”と“パフォーマー”が分かれているのは理にかなっているんですね。
パフォーマーの方々の躍動感がすごいんです! もしミュージカルだったら、わたしがあの動きをしながら歌って台詞を言うってことですよね……絶対できない!(笑)動物は弱肉強食の世界に生きていて、人間以上に死と隣り合わせで。そういう危険な世界に身を置いている生き物を人間が演じるのは限界があると思うので、“歌い手・読み手”と“パフォーマー”それぞれが自分の役割に集中できるからこそ、それぞれが最大限の力を出せるし、動物的なパワーが表現できるのかなと思います。この作品に参加するにあたって野生動物や肉食動物の理解を深めたくて、映像をいろいろと観たんですよね。
──冒頭でおっしゃっていた「最大級の努力をする」ですね。
じつは最初の歌稽古で「いま本当に自分が肉食獣に食われそうになっているとしたらどうする?」「ウサギのスピードで逃げられるの?」と言われて、自分が作品に追いついていないことに気づかされたんです。それで「この作品が伝えたいことはなんだろう」と考えて、動物の本質を理解したいなと思ったんですよね。『BEASTARS』の原作を読んでいると、板垣巴留先生が抱いている動物への憧れのようなものも感じられる気がするので、それも色濃く表現したかったんです。わたしが演じるハルはドワーフ種のウサギなので、自分で調べて“ウサギさんまとめ”みたいなノートを作りました。

──そうやって真山さんならではのハルができあがっていくんでしょうね。ダブルキャストでハルを梅田彩佳さんが演じる公演もあるので、梅田さんは梅田さんのやり方でハルの理解を深めていくんだろうなと。
梅田さんのハルとわたしのハルは、きっと違うんだろうなと思います。梅田さんとは一度お会いしたんですが、あの明るさに触れて第一印象から「わ、ハルちゃんだ!」と思ったんです。わたしも梅田さんにそう思ってもらえるように、ハル役を頑張りたいですね。
──『BEASTARS』は様々な動物たちが集う学園物語ですが、その奥にあるテーマは人間の社会問題ですよね。真山さんは公式コメントで「種族の違う生き物の性質による苦しみや、愛の生まれ方に面白さを感じた」とおっしゃっていましたが、その「面白さ」とはどういうものでしょうか?
共感もあったかもしれないです。おっしゃるとおり、『BEASTARS』は人間の社会問題ともつながるんですよね。たとえば自分の職業であるアイドルに置き換えると、アイドルに対する考え方は皆さんそれぞれ違って、「アイドルだから恋愛はしたらいけないに決まっている」という方もいれば、「アイドルも人間だから恋愛してもいいじゃないか」という方もいて。
──SNSでもそういう議論が頻繁に巻き起こっていますよね。それによって軋轢が生まれたり。
社会でも種族や文化が違うだけですれ違いが生まれて、争いや悲しい出来事が起きることもあって。その違いをどのように受け入れながら共存していくのかが大事だと思うんです。『BEASTARS』は肉食獣と草食獣のように、違いが分かりやすく描かれているので、物事をいろんな視点で見るきっかけになると思います。
──そうですね。学園のカリスマであるアカシカのルイでさえ、様々なコンプレックスを抱えている。でもそんなルイの生きづらさをほかのキャラクターが理解するのは難しい。そういうことは我々の生活にも往々にしてあるものですよね。
自分の抱いている生きづらさって、他の人からするとそうは見えないものが多いですよね。わたしも身長が154.2cmで、日本人女性の平均よりちょっと低いぐらいなんですけど、高校時代の満員電車の通学が本当につらかったんです。乗り換えが便利な車両に乗っていたので特に混雑していて、全身が内臓まで圧迫されて、毎朝つま先立ちで……。これほんとなんですけど、足が浮いてつかなかった日があったんです(笑)。だから小柄なハルが高いところにあるものを自分で取れなくて棒を使ったり、誰かに取ってもらうシーンはすごく共感しましたね。「ハルわかるよ。悔しいよね、それ」って。

──はたから見ればハルは甘え上手かもしれないけれど、ハルにとっては「誰かの力を借りないと生きていけない」というコンプレックスかもしれない。
そうなんですよね。実は原作やアニメを観ていた頃のわたしは、ハルちゃんは絶対仲良くなれないタイプの子だと思っていたんです。お話をいただいたときは戸惑ったのが正直な気持ちで。でもハルを演じることによっていろんなものを学べるかなと思ったんです。それでハルのことを知れば知るほど、ハルがこうなった理由がわかってきたんですよね。ハルはこう生きなければいけなかった。
──ハルは自身の弱点も、女性であるという特性も、何もかもを自分の魅力にして生き抜いている。だからこそ自分を傷つけているところも、無きにしも非ずなんですが。
弱い立場のハルは虚勢を張っちゃうところもあって、本音を隠すことが正しいと思い込んでいる節があるし、厳しい状況を生き抜くためにすごく葛藤してるキャラクターなんですよね。だからこそ好きにならざるを得ないくらいの魅力がある。こうしなければ生きられなかった女の子の悲しみや苦しみももちろんあるし、でも同時にハルには自分自身を誇らしいと感じられる瞬間もあるのかもしれない。だからこそ、アイドル経験がある梅田さんと、現役アイドルのわたしがハルに選ばれたことには意味があるんじゃないかなとも思っていて。
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