楽曲中心の演出が証明したグループの成長

ここからはいよいよ、ツアーのテーマに則った“全員がヒロイン”のブロックが展開。乃木坂46がこれまでリリースしてきた珠玉の名曲たちが本公演ならではのユニット編成とアレンジによって次々と披露される。各曲のラストにはセンターを務めたメンバーが「君に叱られた」の冠ポーズを。1曲目はこの演出の伏線であり、“全員がヒロイン”のテーマに基づいた演出には感動すら覚えてしまった。

まずは6期生の森平麗心、鈴木佑捺、海邉朱莉の3人による「君の名は希望」。こちらは歌唱のみという大胆なアレンジでのパフォーマンス。凛とした立ち姿で澱みないそれぞれの歌声を堪能させてくれたことに始まり、アンダー楽曲ながらライブのハイライトをいくつも飾ってきた「錆びたコンパス」、コミカルなセリフで会場に爆笑の渦を巻き起こした「ぼっち党」などに続いては難易度の高い激しいダンスを少数編成で魅せた「ごめんねFingers crossed」、そしてブロック冒頭の6期生の歌唱に呼応するかのように今度は久保史緒里、井上、中西が歌唱のみで魅せた「ひと夏の長さより…」と、それぞれの楽曲のアレンジや編成の妙にオーディエンスは何度もどよめき、沸き立っていた。「Sing Out！」での会場一丸となってのクラップで再び圧巻の一体感を見せたライブはここからさらにブーストをかけて行く。「乃木坂46 明治神宮野球場公演 10thメモリアルソング」として『Same Numbers』に収録されている「真夏日よ」がもう、とんでもなかったのだ。

事前にYouTubeにてコール動画が公開されていたこの曲には曲中全編におけるオーディエンス参加型のコールパートが存在し、そこには現メンバー全ての名前がニックネームで入れられている（学業専念のため活動休止中の6期生小津玲奈の箇所は同期の愛宕心響が名入りタオルを広げるという粋なパフォーマンスで表現）。自分の推しメンはもちろん「ライブでメンバーの名前を大声で叫ぶ」という原始的な楽しさへと、ポップに弾ける楽曲が、丁寧に分かりやすく作り上げられた事前のコール動画が、そして何よりも誰よりもライブとパフォーマンスを心から楽しんでいるメンバーの表情が、誘ってくれている。恥じらいやためらいを丸ごと綺麗に取っ払ってくれるような、そんな「乃木坂46と一緒にライブをしている」「乃木坂46の楽曲の一部を担っている」感覚がそこにはあった。特に異常な盛り上がりを見せたメンバーで唯一ニックネームに「さん」の付く松尾美佑の「まつおさん」コールの瞬間は本公演一つのハイライトであったことだろう（ちなみにこのニックネームは去年の全ツのグッズであるバナータオルで本人が決めたものである）。コールが大きすぎて曲が聞こえないだなんて本来のライブではあってはならないことだが、この曲だけは特別だ。楽曲をかき消してなんぼとばかりに大声でメンバーの名前を叫ぶオーディエンスたち。上空で楽曲のコールに合わせ繰り広げられていたドローンショーも相まったその様のなんと勇ましく、カッコいいことよ。

間髪入れずの「Monopoly」でギアをまたさらに加速させるグループはここから畳み掛けるようにシングル表題曲や人気曲を連発。ブロックラストに披露されたのは賀喜が初めてセンターを務めた4期生楽曲「I see…」であった。あまりの人気に4期生のみでMステに出演だなんて逸話を持つこの曲だが、ついにライブのクライマックスを司る位置を担うまでの楽曲に成長したのだ。本編ラストは最新シングル表題曲「Same Numbers」。クールで儚げな楽曲であるが「8に愛された女」の異名を持つ賀喜にちなんでこちらの振り付けにも楽曲を象徴するポーズとして「8」のハンドサインが組み込まれている。こちらには無限大の意味も含まれているとのことで、今後の可能性をまだまだ無限に秘めるグループのその先をも祝福しているような、実に力強いラストであった。

アンコールでは今ツアーのフロントメンバーである一ノ瀬が天使、川﨑が小悪魔に扮してコール＆レスポンス。なぜか最終的には「お互いの好きなところを言い合おう」ということで、「みーきゅん（一ノ瀬のニックネーム）は！」「マジメ！」「さくたん（川﨑のニックネーム）の！」「しゅわめろボイス（一ノ瀬が命名）！」という謎の掛け合いが展開される一幕も（笑）。

それに応じる形で勢いよくメンバーが登場。「チートデイ」「他人の空似」とまた楽しくポップに弾ける楽曲が連打され、メンバーたちはステージ上やトロッコ上で思い思いにオーディエンスとの交流を楽しんでいた。ダメ押しとばかりに披露された「ジャンピングジョーカーフラッシュ」は今ツアーではファイナルのみの披露。こちらも「I see…」同様の4期生楽曲であり、ここでも楽曲の成長っぷりに目を見張らされた次第であった。ラストはお馴染み「乃木坂の詩」。何度も見てきた光景ではあるものの、やはりオーディエンスのペンライトがグループを象徴するカラーである紫一色に会場を染め上げる様は実に美しい。ふと見上げるとドローンが再び打ち上がり、会場のみならず上空までをも紫に染め上げていた。

と、ライブはこれで終わらない。ダブルアンコールを求めるオーディエンスに応えグループは再び登場。場内の客電もつけっぱなしというサイコーにラフでサイコーに楽しい「君に叱られた」の再演をもって、グループの夏は今年も大団円を迎えた。

今回の神宮公演は極力バックスクリーンの映像演出を排し、テンポよく楽曲を繋げて行くことでより躍動感を味わえるという趣きの構成であり、テーマとして掲げた“全員ヒロイン”の言葉通り、それは各曲でセンターを務めるメンバーだけでなく、シングル表題を務める楽曲だけではく、そもそもメンバーではないオーディエンスすらもライブの中心として巻き込んでいくグループの求心力の強さがあった。心から感動し、心から楽しい。そんなライブの原始的な喜びと驚きを改めて体験させてくれた。来年は神宮球場100周年。ここで再会を誓うグループの可能性は「Same Numbers」の「8」のハンドサインが象徴する通り、まだまだ無限大だ。

配信情報

「乃木坂46 真夏の全国ツアー2025」明治神宮野球場公演（リピート配信）
DAY2：9月13日(土) 18:00開場／19:00開演
DAY3：9月14日(日) 18:00開場／19:00開演
DAY4：9月15日(月) 18:00開場／19:00開演
※複数同時プラットフォーム配信
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