相思相愛の2人が『海辺へ行く道』で過ごした日々を振り返る
横浜聡子監督が惹き出した唐田えりかの自然体 夏休みのような撮影でわかった“お互いのこと”
2025.09.06 17:00
2025.09.06 17:00
もともと子供より大人の方がよくわからない
──なお、今作のエンディングテーマは唐田さんが歌われていますよね? どういった経緯でああいう形になったのですか?
横浜 一番最初にラッシュをスタッフで見た後、打ち合わせした時に、今回の音楽を担当した荘子itさんが「エンディングに関して意見がある」と。なんだろう、まだ編集の話をしてるんだけどな……と思っていたら「この映画の世界観をそのままエンディングにも持ち込みたい、キャストの誰かにエンディングテーマを歌ってもらうとか、そういうことがやりたい」とすごく明確な意見が出まして。それで「唐田さんがいい」と。
──唐田さんとしてはそのオファーが来たときは、すんなり受け止められましたか?
唐田 撮影が終わって、その年の年末くらいにマネージャーさんから電話がかかってきて、「いやちょっと唐ちゃん、びっくりなんだけど」と。「歌って……歌える?」と聞かれたので「歌は得意じゃないですよ?」と(笑)。よく聞いたらこのエンディングの話で。「でも歌は得意じゃないし、映画の世界観を壊しちゃう気がするから、あまり前向きにはなれない」とお答えしたんですよ。でもそうしたらプロデューサーの和田さんが「荘子itさんは天才だから! 天才がそう言ってるんだからやるべきだ!」と。周りも「天才がやって欲しいと言ってるぞ!?」と勧めてくるし(笑)。それで私も荘子itさんのことを調べさせていただいて、こんな人にお声がけいただくのは滅多にないかもしれないなと思うようになり。「ダメだったらなかったことにしてもらって大丈夫なので、それでもいいならお願いします」という感じでお受けした感じです。
──それがまさかのラップ。
横浜 ラップ以外のところもありますけどね(笑)。レコーディングも面白くて、いやそもそもいろんなハードルがある曲なんですよ。キーも難しいし高低差が激しいし、その壁を唐田さんが軽々と越えていって。
唐田 横浜さんと荘子itさんと3人で部屋に入って、いろんなキーを出したりしながら、一日で終わりました。
──原作マンガはもともと短編オムニバスで、それぞれの作品が世界観で微妙につながっているという構成ですよね。今回の映画のような形に再構成した理由は?
横浜 私は原作を何回も読みすぎて、もう全部頭の中に入ってるんですよ。登場人物が自動的に「この人がこの人と出会って、こうなってこの出来事が起こる」というのが頭の中で構成されていて、脚本を書き始めたら自然に今回のような形になったという感じです。

──結果的に「子供たち」が物語の中心になる、というのが映画の軸になっている気がしました。それは意識されていましたか?
横浜 それも自動的というか、原作では原田琥之佑君が演じる奏介が何回も出てくるので、若干主人公感はあるんですよね。そこに引っ張られたのもありますし、子供たちが見た大人の世界というか、子供たちの方が大人より大人っぽくなってしまう瞬間とか、大人たちの方が自分が好きなことをわがままにやっていて子供っぽく見えるとか、そういういろんな出会いと交差みたいなものがあったら面白いなと思ったのはあります。
──横浜監督はEテレの作品もやられていて、これまでの作品でも割とティーンエイジャーが出てくるものが多い印象があります。そういったところはご自身のテーマ性としてあるんでしょうか?
横浜 あるんでしょうね。もともと、子供よりも大人のことの方がよくわからないというか……子供の方がよくわかるというと嘘っぽいんですけど、今も自分が大人になった感覚がなくて。“子供おばさん”みたいな感じで生きている感覚があります(笑)。
──唐田さんは完成した作品を見てどう思われましたか?
唐田 私、映画に出てくる「A」という登場人物が喋っている言葉が好きすぎて。考えさせられるというか、自分にすっと入ってくるんですよ。自由を求めていろいろやっていきながらも、その「自由」が自分の中であまり言語化できなかったんですけど、「自由というのは対話が必要なんだよ」みたいな言葉とか、自分が思っていたけど言語化できないことをAが言語化してくれるみたいなのが多くて。一番好きなキャラクターかもしれません。

──では最後に、この作品は秘密や嘘を抱えた人たちが多いのですが、お2人が今抱えている「ちょっとした秘密や嘘」はありますか?
横浜 うーん……どうだろう。そもそも、あまり秘密がないんです。友達といる時は聞き手側に回るので、喋らないですし。
──聞き手側なのに秘密がないんですか?
横浜 そうですね。あれ? いや、ないですね。
唐田 面白い(笑)。でも、聞いたら何でも答えてくれそうですよね。秘密を秘密にしないタイプというか、秘密だと思っていない気がします。
横浜 そうです、自分から言わないだけです。解説ありがとうございます(笑)。
──唐田さん、かなり横浜監督のことがわかっているような。
唐田 実は撮影が終わっても結構頻繁に会っていたりして。ご飯に一緒に行ったり。
──監督から観た唐田さんは。
横浜 いやあ、不思議です。
唐田 えっ、今でも不思議ですか!?
横浜 いや、だんだんとわかってきましたけど(笑)。肩の力が抜けていて、気負ったところがなくて、本当に親しみやすい方なんですよ。そこが撮影前と印象が全然違って、風通しのいい人だなと今では思ってます。
──じゃあ、秘密とかはあまりない人という印象ですか?
横浜 そこまではわからないです(笑)。
