原点を見つめ自らを「エイリアン」と位置付けた理由とは?
ロックシーンに襲来した気鋭バンドOchunism、新作EP完成までの苦悩と葛藤の日々を明かす
2025.07.16 20:00
2025.07.16 20:00
悩んだ気持ちを本当に素直に出せたら届く
──資料によると、今作に至るまでに大量のデモも作ったとか。
凪渡 作りました(笑)。資料には60曲と書いてますけど、細かなものも含めればもっとあって。
──ひたすらデモを作っていくやり方って、これまでに経験はあったんですか。
凪渡 最初にレーベルの方と一緒にやったときはもっと作ってました。でもその時のデモを振り返ると……もう、すごいですね。
イクミン 聴いてられない(笑)。
凪渡 サビが全部叫び声のやつとかあるんで(笑)。当時の僕にとって、音楽はただの感情の爆発みたいな場所だったので、今やったら逆に作れないようなものもたくさんありました。今回のデモを作るにあたっては、ほんまに良いものを作りたいとみんなが思っていたので……でも本当にみんなが納得できるものって、誰にもわからないじゃないですか。

──前段階で迷走状態も経験した上だと、余計に考えちゃいますね。
凪渡 一番の暗黒時代でしたね、僕の中で(笑)。『Scramble』はどこかで「迷走しながらも良い曲は作れたし、何かが変わるだろう」という、今思えばすごく他力本願な甘さがあったんだと思うんですよ。言われたことをやればいい、求められたものを作ればいいんだと考えちゃってたところもあったし、そういうのってファンとか音楽を好きな人には届いちゃうものなんですよね。良いんだけど「なんか良い曲」で終わるというか。
──ああー。
凪渡 もちろん『Scramble』で好きになってくれた人もいるんですけど、どこかふわっとしていたんですよね。それで一気にバンド全員が絶望モードになって、まず良い曲って何なん?っていうところから地獄のデモ作りが始まり。そういうしんどい時期が「GIVE ME SHELTER」を出すまで続いてました。
──ということは「GIVE ME SHELTER」ができた、出せたことが大きかったんですね。
凪渡 めちゃくちゃ大きいことでしたね。最初はギターのちゅーそんがサビのコード進行だけを鍵盤で打ち込んだものを僕に渡してきて、それを元に考えたサビのメロディがすごく良かったので曲にしていったんですけど、リリースするまでに1年くらいかかっていて。一番大きいポイントは詞なんですよ、僕にとっては。
イクミン 俺もそうやな。
凪渡 な? 今の僕らにとって編曲のブラッシュアップは結局、詞があってこそなんですよね。最初は「GIVE ME SHELTER」もただ踊りたい、踊ろうぜみたいな曲だったんです。でもそこに当時感じていた絶望が乗っかって、《ガラガラのクラブで踊りたい》という特徴あるフレーズにマッチした感覚があって。……正直、事務所に入ったりメジャーデビューする中で、自分の言いたいこと歌詞にしちゃダメなんだと思っちゃってたんですよ。
──それは何故ですか?
凪渡 自分の言いたいことはそもそもマイノリティで、そんなふうに思ってる人はいないよ、凪渡くんだけの悩みじゃん、みたいなことを言われたタイミングがあって。あんまり理解されないなら自分を出しちゃダメなんだって思っちゃったんです。けど、悩んだ気持ちを本当に素直に出せたら届くんだって、「GIVE ME SHELTER」で実感できた。結局は出し方が下手だったんですよね。表現の仕方が下手やったから誰にも届かなかっただけで、ちゃんと自分に嘘をつかずにうまく言葉にしたら、周りのスタッフからも「良い歌詞」って言われて。それでやっと「自分の思ってることを詞にしたい」「届けたい」という原点に戻れたし、自信を持てたんですよね。
──そういった作詞面での原点回帰と、先ほど言っていた知識や技術の向上によって「やりたい音楽」を形にできるようになったことの合わせ技が今作なわけですね。個人的な印象としては、ゆらゆらと乗っていくようなダンスの心地よさよりも、もっとガンガン肉体的に作用するタイプのダンスや、ロックのダイナミズムを強く感じる気もしました。
凪渡 やっぱり「GIVE ME SHELTER」ができてからのみんなのマインドが、その勢いに出ましたね。
──特に始めの「Alien」から「Zero Gravity」の流れがとても好きなんですが、この辺りの曲も「GIVE ME SHELTER」以降に形作られていったんですか?
凪渡 そうですね。特に詞は常にアップデートしていくので、本当にレコーディングのギリギリまで考えるタイプなんですよ。「Alien」のサウンド自体で言うと、間奏で音が減るところはもう2年以上前からあったんですけど、そこにちゃんとテーマ性というか……曲の感じがなんかエイリアンの行進っぽい、みたいなことはずっと言っていて。そこに「ストレンジダンスロックバンド」というテーマができたことで、よりわかりやすくロックの要素を入れようとか、ギターは歪んでた方がかっこええやろとか、どんどんブラッシュアップしていきました。

──「Alien」は歌詞も良くて。ラブ&ピースでもあるし多様性やそれに対する肯定の意思も感じます。
凪渡 良いですよね。僕も気に入ってて。ああいうサウンドやったら、ついついかっこいい詞にしがちなんですけど、ちょっと可愛いエイリアンっぽさを意識してみました。
──エイリアンというフィルタを経由することで、メッセージが言いやすくなったり濃くなりすぎない効果もありそう。
凪渡 実はこのエイリアンというのは自分たちやと思って書いてて。音楽シーンに対する気持ち──他ジャンルを見下してる人もいたりとか、SNSで音楽が好きな人同士で争い合ってたりするのって本末転倒じゃね?みたいなこととか。僕自信はあんまり音楽のバックボーンがなくてずっとバスケ部やったんで、2番の《教えてよ地球人》っていうところに、音楽好きでずっと音楽シーンにいた人に対する僕なりの気持ちも入れてみました。
次のページ