上田誠が追求した面白さを構成するさまざまな要素とは
魅惑の無重力舞台にSFエンタメ全部盛り!?伊藤万理華主演『リプリー、あいにくの宇宙ね』開幕
2025.05.07 18:00
2025.05.07 18:00
ニッポン放送と「ヨーロッパ企画」上田誠のタッグで贈るエンタメ舞台シリーズ第5弾『リプリー、あいにくの宇宙ね』が、 2025年5月4日より東京・本多劇場にて開幕。初日に先駆けて公開ゲネプロと記者会見が行われた。
物語の舞台は、宇宙開発ラッシュの時代。Z社は、火星と木星の間にあるアステロイドベルトへ核融合エンジンを搭載した宇宙船100機を派遣、資源探査を行う「プロジェクト・ジャックポット」を発動する。その100機のうちの1機として地球から旅立った宇宙船ブリコロモラ。キャプテン(岩崎う大)が指揮を執るこの宇宙船は、航海士ユーリ(伊藤万理華)と航海士キリト(井之脇海)のペアに加え、オペレーター(石田剛太)、機関士(中川晴樹)、通信士(野口かおる)、採集した資源を分析するための科学主任(平井まさあき)が乗り組んでいる。そして2体の作業用ロイド、ロビィ(浦井のりひろ)とボグ(槙尾ユウスケ)も搭載されていた。

小惑星の一つに到達したものの、肝心の資源探査は空振りに終わり、失意とともに地球近傍まで帰還してきたプリコロモ号だったが、船内でさまざまな緊急事態が発生して一同騒然! その上、密航者(金丸慎太郎)が見つかったり、宇宙を漂流する吟遊詩人ニルダ(シシド・カフカ)が現れたり。絶え間ないトラブル、そして「あいにく」の連続に翻弄されるクルーの運命は……? というストーリー。
上田誠×ニッポン放送の作では、これまでの4本は既存の小説などを舞台化した作品だった。今回は初めての「完全オリジナル作品の新作」となり、そのためか“上田誠節”が全開、という印象だ。記者会見でも上田は「オリジナルといいつつ、過去の古今東西のいろんな宇宙SFをオマージュしてるんですけど、宇宙SFもなかなかやる機会がないので、せっかくなんで載せられるものは全部載せようと」と語っていたが、まさにこの作品はSFエンタメ作品の「全部盛り」!
たとえばタイトルの“リプリー”といえば、『エイリアン』シリーズの主人公の名前だが、クルーが最初に見舞われるトラブルは船内へのエイリアン侵入。思わず「もうそれ出すの!?」と脳内でツッコんでしまう。ほかにもさまざまな映画やアニメ、漫画、小説作品のオマージュだったり、作品の名前が会話上でさらっと使われたり……SF好きであればあるほど、作品の中に山ほど詰め込まれた元ネタ探しがとにかく楽しい! もちろん、基本は元ネタがわからなくても笑える仕組みになっているので、SFに馴染みがなくても大丈夫だ。

また、上田誠作品といえば、そもそも作品の舞台になっている世界自体が少し奇妙なものというパターンが多く、序盤は観客に世界観を説明するような展開があり、そこからだんだんと……というのがセオリーだ。ところが今作は、幕が開くなり突然の非常事態からスタート。そして、このドタバタの状況がノンストップ、かつフルスロットルで続いていくのが大きな特徴といえるだろう。
確かに舞台セットで宇宙船の中というのはひと目で理解でき、シチュエーションを説明する必要もない。SFエンタメの強みがここにあったのか! と目からウロコが落ちる気分になる。2時間その調子でさまざまな事が起こり続けるため、なんともラストまでエネルギー値の高い舞台なのだが、最後まで息切れせずに観られるのは、キャスト1人1人が個性と実力を兼ね備えたメンバーというのがおそらく大きい。
まずは主演・ユーリ役の伊藤万理華。上田誠作品はドラマ『時をかけるな、恋人たち』で経験済みだが、舞台は初めて。しかし、彼女の存在が舞台全体をポップに彩る、とても重要な存在だ。今作、舞台の説明として“SFアクション音楽コメディ”とついているのだが、実は“音楽”もかなり重要なファクター。合間合間で登場人物が歌い踊る楽曲が入るのだが、伊藤がラップ調の歌詞を歌いながら踊る姿のなんとキュートなこと! また、SFといってもガチガチの本格SFではなく、どことなく日常と地続きのような“ゆるさ”も感じられる上田作品。登場人物の中では最も普通っぽい(?)ユーリというキャラクターだが、彼女が演じることでより魅力的になり、観客を舞台の世界へとスムーズに導いていく。

井之脇海は、ユーリの相棒航海士役を好演。能力は非常に高いものの、調子に乗るとちょっと周りをイラッとさせる、そんなキャラクターを絶妙に演じている。もともと上手い人だけに、説明ゼリフのシーンも説得力が抜群。個性派揃いのカンパニーの中で、若いながらもしっかりとベースライン的な存在に。

中盤から現れてクルーをかき回す吟遊詩人ニルダ役のシシド・カフカは、今作が初舞台とのこと。しかしそんなことは全く感じさせない安定感に驚かされる。ミュージシャン、モデル、俳優とさまざまな顔を持つ彼女だが、個人的には前々からコメディエンヌとしての資質に注目していたところ。今作ではその部分が十二分に発揮されており、コメディ作品での肝となるテンポ感がとにかくいい。今作を観て「もっと彼女が出演するコメディ作品が観たい!」と思う人は多いのではないだろうか?

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