2025.05.02 19:00
2025.05.02 19:00
過去の演技が気になるということは、それだけ成長できたということ
──本作の見せ場の一つが、橋の上のシーン。心の奥底にしまった感情を吐露する野村さんの演技にグッと引き込まれました。
あそこはもう(飯島祐太郎役の)吉田晴登くんのおかげです。カット割りの関係で何度も繰り返し撮っていたんですけど、晴登くんは自分にカメラが向いていないときも100%の演技でぶつかってきてくれたので、僕も感情を出しやすかった。晴登くんへの感謝の気持ちでいっぱいです。

──野村さんは事前に役の心理を細かく分析してプランを立てるより、現場で生まれてきたものを使って演技をしたいタイプですか。
僕はそっちだと思います。あまり事前に考えて決め込まないようにしていて。今回も、糸としてはやっぱり祐太郎のことをとにかく説得したかったと思うんです。糸も同じぼっちだから、祐太郎の言ってることはよくわかる。だけど、自分が班長を任されたからこそ、最後まで修学旅行をやり遂げて、みんなで一緒に楽しい時間をつくりたかった。晴登くんとお芝居をしていると、そういう気持ちが自然とこみ上げてきた感じがしました。
──ああいう場面では、普段なかなか出すことない感情をアウトプットしなければいけません。演じていると、自分ではない別の人になれたという感覚を覚えることはやはりあるのでしょうか。
ありますね。特にあのシーンはカットがかかった後、6人みんな泣いていて。「頑張った!」「お疲れ様!」ってみんなで抱き合ったんですよ。それくらい熱くなれたシーンで。撮影スケジュール的にも終盤だったのもあって、この撮影を通して積み上げた6人のチームワークが出た場面になったなと思います。
──6人すごく仲良くなれたそうですね。
はい! 同じ教室にいながらほとんど話したことのなかった糸たち6人が徐々に一つになっていくのと同じように、僕たちもほぼ初対面のところから始まって一つになれた。今でもプライベートでみんなとご飯に行ったりしています。

──その中で座長らしくリーダーシップはとれましたか。
(力強く)いえ!
──そうなんですね(笑)。
座長としてみんなを引っ張らなきゃという意識はあったんですけど、結局みんなに助けられてばっかりでした(照)。
──班長を任せられた糸も本を読んでリーダーとは何かを勉強します。野村さんはリーダーにとって大切なことはなんだと思いますか。
やっぱり勇気を振り絞って一歩踏み出すことですね。この作品の撮影が1年半以上前で。僕にとって初めての単独主演。まだそこまでキャリアもなく、とにかく一生懸命にやるしかないと思っていました。撮影に入る前から何度も台本を読み込んで、現場でも役をまっとうすることで精一杯。リーダーらしいことは何もできなかったですけど、自分にできることをがむしゃらにやるということだけはなんとかやり遂げられたんじゃないかなと思います。
──完成した作品をご覧になって、1年半前の自分の演技にどんな思いが湧いてきましたか。
まだまだだったなって。ここのお芝居はもっとこうできたなとか、ここのお芝居は見てられないなとか、反省するところがちょくちょくありました。でも、そこがあって安心もしました。気になるということは、それだけこの1年半の間に自分自身が成長できたということなので。あの頃に比べたら多少は視野も広くなったのかなと思うところはありましたね。

──俳優さんにとって、映画ってタイムカプセルみたいですよね。反省もあるかもしれないけど、1年半前の野村さんにしか演じられないものもある。
本当にそうだと思います。あの初々しさはキャリアが浅いうちにしか出せないもの。やっぱり経験を積むとどんどん失われていくものなので、貴重だなって思いました。
──「僕はなんのために、誰のために生きているのだろう」という印象的なモノローグから本作は始まります。野村さんも同じようなことを考えたことはありますか。
生きてるのだろうじゃないですけど、なんのためにこの仕事をやってるんだろうって思ったことはあります。でもこの間初めてファンミーティングをやって、ファンの方々に直接お会いしたら、みなさん本当に温かい方ばかりで、終わった瞬間、本当に感極まっちゃって、みなさんの前でううーってなっちゃいました(照)。でもすごく大きなものをもらいました。この人たちに喜んでもらえる仕事をしようと思ったし、大切にしなくちゃいけないなって。
──アイドルやアーティストと違って、俳優はファンの方の前に立つ機会が少ないですからね。
そうなんですよ。だからこそ、みなさんとお会いできたことが本当にうれしかったです。

──今のお話も通じるところですが、劇中でも「存在価値」というワードが出てきます。特に若い頃は自分の「存在価値」に思い悩むことはよくありそうですが、野村さんはどうでしたか。
どうなんだろう。あまり考えたことがないかもしれないです。
──それって、どうしてだと思います?
やっぱり育ってきた環境だと思います。すごく恵まれていたなということは自覚していて。家族もそうですし、中高の部活のメンバーがいい子ばっかりで。環境が充実していたおかげで、あんまり自分に存在価値がないって感じたことがなかったのかもしれないです。
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