『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』が描く純愛とは
萩原利久×河合優実の価値観トーク 優しくて痛い「恋の残酷さ」に二人が思うこと
2025.05.06 17:30
2025.05.06 17:30
恋は、残酷だ。すべての人の想いが、報われるとは限らない。誰かの恋が実るその陰で、誰かの恋が破れて、誰かがひっそりと泣いている。あらゆる恋は、届かなかった想いの残骸の上に実る果実なのかもしれない。特に、まだ自分のことしか見えない若い時期ならなおさらのこと。
そんなピュアで、エゴイスティックな恋を生々しく描いた映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』が4月25日に公開された。主人公は、肥大化した自意識を抱える大学生の小西徹(萩原利久)。冴えない大学生活から自らを守るために日傘を差して生きてきた小西は、同じ大学に通う桜田花(河合優実)と恋におちる。
人を好きになると、世界が広がる。人を好きになると、誰かを傷つける。狂おしいほどまっすぐな恋を演じた萩原と河合の二人が語る、恋の痛みとは──。

あれは小西なりの傷つけないやり方だった
──華やかな大学生活の中で、集団に溶け込もうとしながらもそれができず、やがて自ら集団に一線を引くように孤高の道を選ぶ桜田。お二人にも、桜田のような部分ってありますか。
萩原 全部が全部じゃないですけど、あります。たぶん僕自身も持っているものだと思います。
河合 すごくわかるな、と思いました。学校って絶対にグループができていくじゃないですか。それに対する違和感は私にもあったし。
萩原 無理するものではないですからね。全員が全員合うわけではないので。合わないなと思う人がいるのも自然だし。一人でいたほうが楽な瞬間は絶対ある気がする。
河合 ただ、じゃあ自分が学生のときに桜田みたいに一人になれたかというと全然そうではなかったので。それって勇気がいることだし、寂しくないと言ったら嘘になる。私はみんなといるのも楽しかったので、そこまで線引きしなくても生きてこられた、みたいな部分はあるかな。そこが桜田との違いですね。

──お二人は、教室の中でどの立ち位置にいましたか。
萩原 小学校のときは大人数でわちゃわちゃしている子どもでした。それが、学年が上がるたびにどんどん人が減っていって(笑)。高校の頃は、いわゆるカーストの上位にいるようなタイプではまったくなかったです。
河合 私は学級委員とかいっぱいやっていたんですよ。みんなが周りに集まるお調子者みたいな感じではなかったですけど、教卓に立って会議とかしていた記憶はあります。入っていたダンス部も女子が多かったから、休み時間は大人数でご飯を食べていました。たぶん桜田がクラスメイトだったら交わらなかったと思います。

──そんな桜田に好意を寄せるのが小西です。小西って日傘で自分を武装するような繊細な面がありながら、一方ですごく他者に対して無関心で身勝手な気もしました。小西の人物像について二人はどんなことを思いましたか。
萩原 ああいう小西みたいな自己防衛は、やり方は全然違いますけど、僕自身もしてなくはないと思うんです。だから結構理解できました。
河合 自分は人と違うという自意識って、学生時代特有のもの。小西や桜田だけじゃなく、みんなそれぞれ孤独を抱えていると思うんですよ。それが、二人の場合、こんなふうに感じているのは自分だけだと思いすぎて、日傘だったり、一人でざる蕎麦を食べるという行為に出ているだけで。じゃあ、社会人になっても同じようなことをしているのかと言ったら、そうじゃない。だからやっぱりこれは大学生の話であるべきだし、そこも含めて青春だなと思いました。
萩原 おっしゃる小西の身勝手さというのは、見方によっては優しさのような気もして。小西もちゃんと人の情にふれられる子ではある。ただ、人と人との関係ってこうすれば正解というものが存在しないから相手を傷つけてしまうわけで……。小西が悪いというより、これはもう人間社会が難しいんだなと(笑)。

──バイト仲間のさっちゃんからの想いに応えられなかった小西が、その夜、洗濯機の前で立ちすくんでいて。さっちゃんを傷つけてしまったことを悔いているのかなと思ったら、結局桜田のことを考えていた。それがすごく残酷だなと。
河合 でも、好きな人ができるってそういうことだと思うんですよね。現実でも、好意のない人から告白をされたら、ごめんだけど興味ないからって思う人も絶対いるじゃないですか。ましてや小西には他に好きな人がいる。そこはやっぱり恋というものが残酷なんだと思うし、小西の反応はすごく絶妙だなと、私は思いました。
萩原 小西がああなるのも、わからなくはない側面があって。イメージ的に、心と体と頭が全部別々になっている感覚だったんです。さっちゃんが言ってることも聞こえているし、瞬間的には内側で反応もしている。でも、それを処理する頭と心と体が全部別々だから、言葉は理解しつつも、同時に「あ〜、ちょっと寒いな」みたいな気持ちも出てくるんだろうなと。僕が小西に対して根本の部分で優しさがあるかなと思ったのは、もっと雑にやれば、途中で止めることもできたと思うんです。
河合 確かに。
萩原 もっとあからさまに嫌がれば、さっちゃんも途中でやめたかもしれない。いろんな選択肢がある中で、彼なりに傷つけないやり方を選んでいた気はして。わからないですが、もしかしたら単に面倒くさいから穏便にすませたかっただけかもしれない(笑)。丸くおさめることが優しさかというと、また話は別ですけど。でもあのとき少なくとも小西に悪意があったわけではないから。途中まではなんて言えばいいんだろうと一生懸命考えていたけど、それでも止まらないから、考えるのすらやめちゃって。なんとなく目に映ったものが気になる、みたいになるのは気持ちとしてはよくわかります。
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