主要キャスト一新で届けられる名ミュージカルの魅力を解説
その“愛される理由”はステージから客席へ、“あなた”に寄り添う2025年版『キンキーブーツ』開幕
2025.04.29 20:55
2025.04.29 20:55
多様化する時代に響く作品のメッセージとは
工場の従業員で、チャーリーへの道ならぬ恋に突然落ちるローレン役は、田村芽実と清水くるみのWキャスト。2人とも、3作続けてソニンが演じたローレンを、同じくコミカルかつチャーミングに演じている。表情の差と感情の起伏が大きく「ひとりローレン劇場」とでも名付けたくなるような芝居を見せてくれる田村。キュートと自然体が同居しており、チャーリーへの気持ちを応援したくなる清水。彼女たちの芝居により、ローレンの新しい魅力が見えたように感じる。

チャーリーの婚約者、ニコラを演じるのは熊谷彩春。ミュージカル『No.6』での入絵加奈子との心震わせる歌声の記憶も新しい熊谷。どうしても「わがままな婚約者」として受け取られやすいニコラだが、熊谷の芝居により「自分の人生を自分の足で歩むために道を決断した女性」と新たに感じることができた。ローラへ偏見の目を向けていたドンを演じるのは大山真志。ドンが「ありのままの相手を受け入れる」ことを学び、男として大きく成長していく様は必見だ。

今作では主要キャストが一新されたが、ジョージを演じるひのあらた、パット役の飯野めぐみ、エンジェルスの“アンナちゃん”穴沢裕介は、いずれも日本初演から4作続投のキャスト。他、佐久間雄生、藤浦功一、船山智香子(3度目)、シュート・チェン、多岐川装子、高橋維束(2度目)といった続投のキャストがこれまでの魂をしっかりと引き継ぎ、脇をかためている。従来のファンとしても嬉しく、キャストとしては心強かったことだろう。
そして、ラストのショーのシーンなどで客席に向けて(主にローラから)呼びかけられる「Ladies, Gentlemen, They, Them, 本当の自分を探し求めているあなた」。これは、2016年・2019年版では「Ladies, Gentlemen, そしてまだどちらか決めかねているあなた」という台詞だったが、2022年版より時代に合わせて本家脚本家のハーヴェイ・ファイアスタインによる修正が入り「They/Them」と新たな言葉が加わった。

「They/Them」は日本では直訳のない代名詞であり、本作を通じてこの表現や考え方が伝わるようにとの思いを込めて、さまざまな協議を重ねた結果「Ladies, Gentlemen, They, Them, 本当の自分を探し求めているあなた」としたという。
この考えは2025年版でも踏襲され「本当の自分を探し求めているあなた」と舞台上から客席へ呼びかけられるのだが、性別のことだけではなく、今何らかの道に迷っていたり、生き方に苦しんでいる人に対しても「ありのままの自分でいいんだよ」と寄り添ってくれていると感じさせてくれる。
良い靴、すてきな靴は、自分をすてきな場所に連れて行ってくれると言う。観劇中からずっとハッピーで、観終ってからもそれは続く。その気持ちのまま帰り道に新しい春の靴を買って1歩踏み出し「自分が変われば世界も変わる」と前向きになれる作品だ。

なお、1日目のゲネプロ前には囲み会見が行われ、東啓介、有澤樟太郎、甲斐翔真、松下優也、演出のジェリー・ミッチェルが登壇した。
まず今の気持ちを聞かれるとジェリーは「最高の気分! とてもワクワクしているし、自信をたっぷりと感じています。皆さんの状態は……“full out”(全力)」と茶目っ気たっぷりに口にする。東は「新しいメンバーでこのキンキーブーツをお見せできるのを楽しみにしています」と初日が待ちきれない様子。有澤は「多くのクリエイタースタッフの皆さまにチャーリー・プライスとしての生き方とノウハウをたくさん教えていただき、そして最後にはジェリーに魔法をかけていただきました」と感謝を述べた。

甲斐は「この作品は、最後のピースであるお客さまが入った瞬間にできあがるものだと思っています。初日に、こうやって(「Land of Lola」での登場シーンのアクション)出てくるのが楽しみで(笑)」と場内を笑わせる。松下は「皆さまごきげんよう! 松下優也役のローラです」とローラに入りこんだ挨拶で会見場の爆笑を誘いながら「松下さんは、初日の前いつもは緊張が多いらしいのですけれども……私ローラ、ライブ直前のような高揚感がすごい状態ですの。今この渋谷が明るいのは、私がいるから」と自信に満ちた微笑みを浮かべた。

作品を観る側から演じる側になってみて感じたことは? との質問に、東は「セリフがとても多いです。決まった時間の中でそのセリフ量をこなしていくのには、慣れが必要でした。ローラは衣装やメイク替えもあるのでもっと大変なのでは?」。有澤は「こんなにもエネルギーが必要なのかと。1人が変わればいろいろな方向に変わっていくライブ感のある作品ですね」とコメント。
甲斐は「ローラってこんなにも休憩が無いんだな、って(笑)。舞台袖に入るたびに、着替えたりメイクを落としたりメイクを足したり……。始まったら終わるまでが一瞬なんです」とすると、ここでジェリーが「ニューヨーク初演で、ビリー・ポーター(初代ローラ役)が同じことを言っていました。あまりにも一瞬で、本番をやったのか分からなかった、って(笑)」と。松下は、甲斐と同じく着替えや支度が大変なことに触れながら「僕たちは体がそこにあればいいのですが、(メイクなどをしてくれる)ギリギリの中で仕上げてくれるスタッフさんたちが本当に素晴らしい」と感謝を述べた。

そして「キンキーブーツが多くのお客さまから愛されている理由は?」との問いには、ジェリーが「お客さまは、必ず舞台上に自分を見出して自分の物語だ、と感じる。さまざまな人物がお互いを受け入れて、最高の自分でいられるようになる。それが本作が愛される理由ですね」、東は「チャーリーの成長物語やローラの言葉への感銘。セクシャルなことなど、さまざまな多様性を受け入れることなどが、愛される理由のひとつなのではないかな」、有澤は「作品を作っている方々の愛が素晴らしいです。その愛を僕たちはお客さまへつないでいかなければいけません」、甲斐は「ハッピーなミュージカルでありながら、みんな自由なんだという、分かっているけれども気付けなかったことに気づかせてくれます」と魅力を語ると、松下は「愛される理由……それは、私たちが最高だから!」となおも場を盛り上げつつ、「ゴージャスだしファビュラス。照明も華やかな世界で、でも本当に繊細な部分も描いていて、その差が好きです。一方的にこちらがお届けするのではなく、見ている皆さんに寄り添っている。本当の自分を探し求めるあなたに寄り添う作品です」とし、囲み会見は終了した。
公演は5月18日(日)まで東急シアターオーブにて上演中。その後、5月26日(月)から6月8日(日)までオリックス劇場で上演される。
