関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ! 第22回
『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』公開記念、アクションの未来を切り開く谷垣健治との特別対談(後編)
2025.01.21 19:00
2025.01.21 19:00
関根勤が偏愛するマニアックな映画を語る連載『関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ!』。第22回も前回に引き続き、『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(2025年1月17日より劇場公開中)でアクション監督を務めた谷垣健治と関根の特別対談をお届けする。
後編でも2人によるマシンガントークの応酬は止まらない。それぞれが敬愛するアクション俳優たちの魅力をしゃべり倒し、そして谷垣のアクション演出が冴え渡る最新作についてたっぷり語り合ってもらった。(前編はこちら)
第22回 『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』スペシャル対談(後編)
関根 今すごく人気があるのはマ・ドンソク。あの体と、重く感じるパンチ。韓国の俳優さんって皆、殴られるのがうまいですよね。あそこは2年間の徴兵がある。とにかく体を鍛えてますからね。まだ(北朝鮮と)休戦中ですから。気合いが違うんですよ。
谷垣 体が分厚いですよね。このあいだ、お会いしたんです。タッパがむっちゃあるというよりは、デカい!
関根 顔がねえ、ハンサムすぎなくていいんですよ。なんとも味がある。西田敏行さんみたいな味。あとは……ジェイソン・ステイサムが好き。あの人、何がすごいかっていうと、飛び込みの選手なんですよね。身体能力が半端じゃない。
谷垣 一流の人ほど自分のスタイルを変えられます。あれこれ指図され、右を向いてくださいと言われても、自分自身の確固とした自信があるから他人の言うことも素直に受け入れることができる。逆に中途半端な人は、ひとの言うことをそのまま聞けないから、なかなか変えられない。その点ジェイソン・ステイサムは超一流ですよね。
関根 オリンピアですからね。感じちゃうんですよ、本当に強いって。一流のアスリートの人の体の強さはすごい。それに、ドウェイン・ジョンソン。ザ・ロック(ジョンソンのリングネーム)。彼はプロレス出身だから演技力があるんですよ。
谷垣 僕の中でレスラーは、傷のあるレスラーと傷のないレスラーで分かれてまして。傷のあるレスラーは体を痛めつけることで表現をしている。傷のないレスラーはそこに頼らない表現をするので、映画に出てもいい演技をする人が多い気がします。
関根 あと体格。ザ・ロックはポリネシアの人ですから。あらゆる人種の中で筋力と骨の量が最も多い人種らしいですよ。ザ・ロックとか、オールブラックス(ラグビーのニュージーランド代表チーム)。アメリカにもポリネシア系は少数いるらしいです。少数なのに、アメリカの普通のアングロサクソンの若者よりも、アメリカンフットボールのプロになる確率が40倍高い。生まれもっての身体能力。彼らにも早くやってほしいですね、アクションを。
谷垣 いいですね、ポリネシアンアクション(笑)。
映画で応用される多種多様な格闘技
関根 インドの人たちも、いい体をしてますよ、『RRR』なんかを観てると。踊りもね、昔のインド映画はダンサー風だったんですけど、今はラグビーの選手が踊ってるみたいな。
谷垣 『ムトゥ 踊るマハラジャ』の頃とはちょっと違う。
関根 インドも独特の格闘技がありますよね。
谷垣 カラリパヤットですね。
関根 いろんな国で格闘技がありますもんね。世界テコンドー大会で、何連覇もした選手がいたんです。「ネリチャギ(かかと落とし)は、アンディ・フグよりも俺のほうが上だ。なぜなら、俺はテコンドーの世界チャンピオンだから」と。アンディは空手から入ったんですよ。最初は、なかなか勝てなかった。で、アンディは空手を捨てて、平仲さん(ボクシング世界チャンピオンの平仲信明)のところにボクシングを習いに行った。それで、緊張するっていうんで、太極拳で精神を落ち着かせるんです。で、キックボクシングのスタイルを確立した。
谷垣 ほお。
関根 テコンドーの人はテコンドーだけをやってきた人で、ライトのコンタクトだから殴り合わないんですよ。あれ、テコンドーって実戦派じゃないんだなと思ったら、この前に見たYouTubeで、お父さんがテコンドーの選手だったロシアのキックボクサーがいたんです。彼はテコンドーをずっと習ってて、後ろ回し蹴りを食らった相手のキックボクサーは皆、倒れちゃう。見たことのない技だから。
谷垣 研究されてないから。
関根 そうそう。彼はMMAに行っちゃいましたけど。テコンドーの足技はすごいですよね。(異種格闘技団体の)「巌流島」に出た、カポエラの選手がよけられなかった。でも、それも何回か見て、ちゃんとスパーをして対策を立てたら入らないんですよ。グレイシー柔術が最初、勝てたのもそれだもん。UFCでどんどん勝っていったじゃないですか、ホイスが。ところが、「オールアメリカン」を獲ってるレスラーがそれを見て、ちょっとやってみたら、もう勝てない。
谷垣 研究されたら体の強い人の方が有利かもしれませんね。
関根 昔の映画で、おっと思ったのが『暴走特急』。スティーブン・セガールが下からこう……クッ!と足でやってたんですよ。あ、もう取り入れちゃってると。
谷垣 ジャッキーやサモ・ハンみたいに京劇の世界から映画界に来る役者もいれば、セガールみたいに格闘から入るラインもあって。まったく違うものになりますね。あの時期、90年代初頭に新しいアクションスターが4人いたんですよ。ドルフ・ラングレン、ブランドン・リー、スティーヴン・セガール、ジャン=クロード・ヴァン・ダム。中でもセガールは断トツで新しかった。合気道があれだけアクションに応用できるとは思いませんでした。それで、(フィリピン武術の)カリっぽいものも使ってるじゃないですか。トミー・リー・ジョーンズと戦ってるときに。
関根 それは『沈黙の戦艦』ですね。トミー・リー・ジョーンズはあの作品で最初に観たんですよ。内田裕也にしか見えなくて。そしたら、そのあとは渋い演技も見せてくれた。
谷垣 スタントマンはセガールに絡むのを嫌がるらしいです。本気でボキボキやられるから(笑)。僕がスタントマン時代に合わせやすかった方は2人いて、それは倉田保昭先生とドニー・イェンです。2人ともガチな気がするじゃないですか。それが意外にソフトなんです。ソフトなんだけど見栄えがいい。そしてソフトなんだけどやる時はやる(笑)。倉田先生はジェット・リーとやるときは気合が入りすぎて、やばかったですね。
関根 香港の若い俳優がアクションをやるというので、スパーをする雰囲気を魔裟斗選手とやったんですけど、めちゃくちゃ痛がってたそうです。3割くらいでしか蹴らないのに。
谷垣 魔裟斗さんの3割は凶器ですから(笑)。
関根 昔、僕はTBSのドラマに出て、輪島功一さんと一緒になったんです。輪島さんのアクションシーンがあり、アクション監督が来て「輪島さん、ドラマのパンチは、遠まわりで大きく振ってください」と。輪島さんは「ハイ! わかりました!」と。それで、よーい、スタート!となったら……(輪島功一のパンチを繰りだす関根)。最短距離の実戦的パンチなんです。3回やってすべてNGで、監督は諦めてました(笑)。
一同 (笑)
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