2024.12.10 18:00
浅井健一「OVER HEAD POP TOUR」2024年11月22日 EX THEATER ROPPONGI公演より
2024.12.10 18:00
浅井健一の音楽はなぜ古くならないのか。純度やイノセンスはそのままに、ポップの強度が際立ったニューアルバム『OVER HEAD POP』を携えた最新ツアー。「ベンジーがカッコいいのは当然だろう」という共通認識を遥かに超えるライブがそこにあった。ここでは全国12公演のファイナルで、SOLD OUTした11月22日、EXシアターの様子をレポートする。
深いブルーのバックライトが興奮するフロアと対照的なステージ。小林瞳(Dr)、宇野剛史(Ba)が位置につき、少し遅れて浅井が登場。巨大な生き物が動き出すようにグッとテンポダウンしたインスト「あおるなよ」でスタート。浅井のフレーズにリズム隊が加わった瞬間の圧、倍テンで疾走し、ギリギリのテンションで拮抗するアンサンブルにこのトリオの相性の良さを見た。そう、『OVER HEAD POP』はこの3人でガッツリ取り組んだ諸作なのだ。そのスピード感を「Vinegar」に繋ぎ、早くも3曲目にはBLANKEY JET CITYの「SWEET DAYS」を投入。イントロのリフへの大歓声、そしてシンガロング。ブランキーのレパートリーも演奏していることは知っていたが、セットリストの早い段階で披露されたことに若干驚く。が、そんなことは宇野のネオサイケデリックを思わせる音色やフレージングに彼の個性を見つけて、このトリオの個性に身を委ねることになる。
「今日は来てくれてありがとうね」。早々の謝辞に続いてニューアルバムのリード曲「Fantasy」。新曲の中でも熱いリアクションを起こしたこの曲はすでにライブのキラーチューンだ。パイナップルを這う蟻もこの国の税金の高さも並べてファンタジーと表現する発想は文字だけでは絶対伝わらない痛快さを放つ。パイナップル繋がりでもないだろうが、「Fantasy」のエンディングにすかさず赤いライトが放射され、サイレン音が鳴り始めると、それが「パイナップルサンド」のイントロであることにオーディエンスが歓喜し、2階席でも立ち上がる人が続出した。ゾクゾクするギターとベースのユニゾン、空間を切り裂くソロがこの曲の不穏でクレイジーな物語を擬似体験させる。広めの会場ならではのライティングと鳴り続けるサイレンのSEも効果的だった。そしてグッと音数を絞ったスリリングな「Calm Lula」では小林の端正なハイハットワークが冴える。砂埃が舞うアメリカのロードムービー調の質感と同時に、しなやかに動く宇野のフレージングにこのトリオならではの情感が加味される。
浅井の「めちゃくちゃ頼りになるベース、宇野剛史。めちゃくちゃ頼りになるドラム、瞳ちゃん」というメンバー紹介に「めちゃくちゃ頼りになるギタリスト、浅井健一!」と返す宇野。スリリングな演奏と微笑ましいMCのギャップも彼らならではだ。「旅行行こうよ。キューバじゃない?」と、浅井の曲振り代わりの一言から、ニューアルバムから「HUNDRED TABASCO AIRLINE」をプレイ。サイケデリックなサウンドが愉快な白日夢のような世界観を立ち上げると同時に、浅井のメロディメーカーとしての冴えも実感する曲だ。
そしてギターとベースの単音リフとハイハットワークの絡みが豊かな「JODY」を経て、JUDEのナンバー「宇宙的迷子」へ。比較的わかりやすい感情を共有できるこの曲で、また一段フロアの空気が濃くなった。この曲と、生音の深みにエレクトロニックなSEも加わり、ミディアムならではの緊張感が3人の間に生まれた「BLUE BLONDE」は中盤のハイライト。速い曲が持つスリリングな空気とは違う空間の取り方にいい意味で余裕を感じられたことが、このトリオの息の合い方を証明していた。その次に新譜からの「Come on Cushion Fight」が演奏されると、ポップさが鮮明に感じられたのも面白い。
どうやら恒例になっているらしい、ファンとのダジャレの応酬(?)コーナーでは「浅井健一、朝意見一致」案が90点のハイスコアを叩き出し、自分が考えた「ファンタジーでファンたじたじ」には「しつこい?」と渋めのジャッジをくだす浅井。ニューアルバムについて語ることはないのに、このコーナーはあるという不可思議さもベンジーらしいと言えばらしい。
次のページ