映画『チャチャ』が発するメッセージを二人はどう受け止めた?
伊藤万理華×中川大志が生きる日本エンタメの転換期 俳優として今、この世界に願うこと
2024.10.17 18:00
2024.10.17 18:00
虫を怖がる中川さんを見て距離が縮まった
──シーンごとに映画の印象が目まぐるしく移り変わっていくなかで、樂の部屋で紡がれる、チャチャと樂の二人きりのシーンはこの映画のなかでもひとつ独立した世界を作り上げていると思いました。出会いを経て、樂が料理を作るシーン、そこから一夜をともにするまでのシークエンスに顕著ですが、二人きりのシーンはとても官能的でもあると思います。
伊藤 最初に撮ったのは樂との屋上のシーンだったのですが、自分がチャチャをつかめてなかったから、それこそ部屋のシーンになったときに「うわっ、ここすごく快適に過ごせそうだな」と思ったんです。自分がチャチャとしてここに住み着こうと思って(笑)。それくらい樂の部屋のセットの美術が、私が個人的にも惹かれるくらい魅力的でした。まさにチャチャという野良猫が勝手に住み着くのにピッタリな空気感があの部屋にありました。そこに樂がいて、そこでやっと私も心を開けるようになりました。
──美術面の魅力もすごく大きかった。
伊藤 すごく大きかったです。樂の裏側にある一面を考えると、すごく殺風景な部屋に住んでいるイメージも浮かぶじゃないですか。
──冷たく無機質で、人の匂いがしなさそうな。
伊藤 そう。でも、冷たい部屋だときっとチャチャは住み着かないじゃないですか。あの部屋に樂が住んでいるところに彼の孤独感がより出るんですよね。ちゃんと生活するうえで必要な道具があるけど、裏口から家に入る感じ。ああいうところも含めて樂なんだなと思って。
中川 演じているときはそんなふうに考えてなかったんですけど、樂がフルーツを切っているところとか、グラスに入った炭酸がシュワシュワとなっていて氷がカランって鳴る、卵を割るところも、その一つひとつがおっしゃっていたようにたしかにすごく官能的ですよね。官能的という言葉をいただいて、ああ、本当にそうだなと思いました。
そこには二人だけの緊張感と居心地のよさもあって、その絶妙な空間の表現には、美術の力もあるし、映像の美しさもあるし、監督の切り取り方もそうですよね。映像撮影もポスターのスチールも市橋織江さんが手かげてくださって。酒井監督はミュージックビデオも手がけている方なので。一つひとつのカットに意味を感じる魅力がありました。
伊藤 あと、撮影していた時期が夏というのもあって湿度が高かった印象が強くて。でも、そのモワッとした湿度が映像でもすごく伝わってくるんです。部屋にモノが多いからからもしれないですけど、雨上がりのようなジメッとした空気感のなかで野良犬と野良猫が戯れているみたいな。遠くから見るとすっごく寂しいんです。それを観客の方が観察して見るようなところがあると思います。
──とかくファンタジー的な要素の強い画になればなるほど、今、伊藤さんがおっしゃったような湿度であり人特有の匂いって漂白されていきがちだと思うのですが、この映画ってそこに生々しい湿度や人の匂いをファンタジーと同居させていると思うんですよね。
中川 そうだと思います。
伊藤 本当だ。
──という意味でも不可思議なバランス感覚をもって成り立っている映画だと思いますね。
伊藤 樂の部屋の裏側の埃っぽい空気やそれを映している画もすごく好きでした。
中川 あそこはリアルにそんな雰囲気だったんです(笑)。それくらい美術力がすごくで。Gとかもいて。
伊藤 え、いた!? あ、いたいた!
中川 だから俺、ずっと足を上げていて(笑)。
伊藤 私はそんな中川さんを見て「人間らしいところを見れた!」ってうれしかったんです。中川さんが樂としていたから。あの裏の部屋に入ったらGがいて(笑)、中川さんが「あ、俺、虫が無理なんだよ〜!」って言ったときに「あ、人間だな、仲よくなれるかなぁ」って距離感が自分のなかで縮まった感じがして。
中川 よかった(笑)。チャチャが野良猫だとしたら、野良猫がそこに住み着く前に、樂という野良犬が住み着いていたということなんですよね。樂もあそこに勝手に住み着いた。これは映画のなかで明確に描かれてはいないんですけど、樂のおじいちゃんが所有していた場所に勝手に住み着いて、勝手に外からいろんなモノをなかに入れて居座っているという。そういうバックグラウンドが監督のなかであって、置いているモノにもすべて意味があるという。
伊藤 いい意味でそれも怖いですね(笑)。
中川 怖い(笑)。
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