本間昭光のMUSIC HOSPITAL 第14回 アユニ・D
大事なのは時代への俯瞰力、アユニ・Dと語る音楽で叶えたい夢
2024.08.21 18:00
2024.08.21 18:00
一番の願いは孤独な人の仲間になること
アユニ 本間さんは、ほぼすべての楽器ができるんですか?
本間 ベースやギター、あとドラムはやるけど、レコーディングはできないですね。ピアノはずっとやっていて、あとは中学校のブラスバンドでフルートをやっていた。なぜフルートかって、管楽器は楽器ごとにキーが違うんだけど、フルートはC管だから、譜面を書き直さなくていいんだよね。移調楽器じゃないから「ド」のポジションで「ド」の音が出る。それぐらいかな、変わった楽器はそんなにやってないです。
アユニ ピアノはおいくつから始めたんですか?
本間 幼稚園のときからオルガンをやっていて。そのあとは自然とピアノに移っていったんだけど、やっぱり子供のころって野球とかのほうが楽しいから、結局やめちゃうんだよね。でも、中学3年ぐらいのころにテレビでゴダイゴが出てきて、ミッキー吉野さんというキーボードの方がめっちゃカッコいいフレーズを弾いていたんです。調べてみたら、ボストンのバークリー音楽大学というところを出ていて、ジャズを完璧な人がポップスを弾いているのがカッコいいなと。それで譜面を買ってきて弾いてみたら、こんなにカッコいい響きがあるんだなと思って。それがカッコ良くてまたやり始めたんだよね。
アユニ 腕はなまらないものですか?
本間 なまらなかったね。好きでもう一度弾き始めたのが良かったのかもしれない。指をぱちぱち叩かれなかったのが良かったのかな(笑)。自分が興味を持ってやり始めたら、どんどんどんどん自分の身になるよね。ところで、歌詞はどうやって考えるんですか?
アユニ 日常で気づいたこととか、感情とか、出来事とかをなるべく記録に残すようにしていて。そこから搾り取って歌詞にしたり、テーマを作ったうえで自分の人生で起きたことを書き留めたりすることが多いですね。
本間 メモとかはしないんですか?
アユニ メモはめっちゃしますね。日々の出来事を忘れたくなくて、メモします。
本間 自分もメモ魔。メロディが思いついたら「ちょっとトイレ行ってくるわ」って、その場でスマホでパッと録って。
アユニ わかります! 新幹線とかで思いついたら、車両の間のところに行って小さな声で録ったりします(笑)。
本間 あれいいよね。昔は五線紙のノートに書き留めていたんだけど、やっぱりスマホが便利。それで翌日に聴いていいと思えるものしか残さないんだけど、翌日に聴いたらだいたい良くない(笑)。「最高のメロディができた!」と思って録音したのに、翌日になったら「なんじゃこれ」って。録っているときって頭の中でコードも一緒に鳴っているんだけど、それを忘れちゃうんだよね。
アユニ たしかに! ほぼほぼボツです。「こんなのでいいのかな?」と不安に思っていたんですけど、本間さんもそうなんだと知ったらすごく勇気づけられます。
本間 それからその「いいな」と思ったものをデータ化して作っていくと、それも形がどんどん変わっちゃうんだよね。そうしたら、これまで大事にしてきたものをスパッと捨てちゃって。
アユニ やっぱりそれでいいんですか?
本間 そうだね。大事にしていたものだからって、最後まで使う必要はない。もっといいものができるから。制作はよく「乾いた雑巾を絞る」とか言うけど、絞って絞って、絞り出したものから作り始めたら、もっといいものが思いついちゃうみたいなこともあって。そうしたらそれもどんどん変えちゃう。歌詞も書き直しちゃう。アユニさんは歌詞を大事にしているでしょ? どう伝わると嬉しい?
アユニ 絶対にこう伝えたいとか、そういう意思はありつつも、人間は十人十色でそれぞれの人生のルートがまったく違いますからね。でも、最終的な目標というか、一番大きい願いは、孤独な人の仲間になりたい。誰かの何かの光のきっかけになりたい。それだけが祈りですね。受け取ってくださる方の暮らしに交われたら嬉しいです。
本間 リリースされたら受け取ったその人のものだもんね。自分の伝えたいと思っていたものが、実は違う形で感動になっちゃうこともあるけれど、それでも響けばいい。ライブのときも、自分がこう伝えたいと思って歌うけれども、受け取り方は人によって全然違うからね。百人いたら百人違う。でも、それで全然いいと思う。
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