2024.04.13 19:00
2024.04.13 19:00
一周回ってもう一回新人の気分を味わえてる
──今作は日本で撮影していながら海外資本の作品という特殊性がありますよね。実際の撮影はいかがでしたか?
もう、楽しかったですね! (笠松)将にも言ったんだけど、「これは10年経って思い出す現場だからね?」と。一度、深夜にめっちゃ雪の中での撮影で、結構過酷な時があったんですよ。ちょっと将も含めてピリピリした空気になってたんですけど、部屋に持ち込みの暖房を入れてもらって、将と話して。「こんないい現場ないから。お前が声出してたら周りも盛り上がるから、そういう風にやっていこうぜ」って言ったら、将は素直だから、すぐ現場で気持ちを切り替えてくれて。でもそのときに将に言った言葉は、まったくもって嘘ではなく、本音だったんですよ。プロフェッショナルが集まって、海外のエッセンスもふんだんにあり、日本のいつもの現場とはまた違う充実感というか、緊張感がある。そんな現場でしたね。
──シーズン2は監督も脚本も日本人ではない方が勤められている回がほとんどですよね。
そう。監督だけじゃないですよ、助監督も、チーフの照明だったり、メインのスタッフのほとんどが日本人ではなかったです。
──この『TOKYO VICE』のシリーズを観ていて感じるんですが、日本のヤクザというとてもドメスティックなものを描いているのに、従来の日本のドラマ、それこそヤクザものとは全く違うように見えるなと。その理由はどこにあるんでしょう?
やっぱり「外国人が見た日本」という目線があるのは確かなんですけど、画作りとして日本の作品と全然違うのはおそらく「照明」なんですよね。海外の現場だと監督の他に撮影監督がいて、その撮影監督がカメラワークや照明を全部見てて、そこちょっと当たりすぎてるからもう少し落とせとか、細かく指示していく。何だったら芝居のNGじゃなくて、カメラが回ってる最中に監督ではなく撮影監督がカットって言うこともある。日本の現場ではそういう権限を持った撮影監督というのはまずいなくて、やっぱり欧米の現場だとこういう監督と同じぐらいの影響力を持って現場に入っているプロフェッショナルがいて、彼の力で映像がすごく変わる。そのことは痛感しました。
──窪塚さんはこれまでも海外資本の作品は経験されていますが、そういった現場を経ることで俳優としての気付きやプラスになった部分はあるのでしょうか?
単純に「日本とは違うやり方に慣れる」という部分はもちろんあるんだけど、やらなきゃいけないこと、やるべきことっていうのはそこまでは変わらないかな。ただ集中力の持っていき方や現場作り、そういうものは海外の現場ではまだ少しアプローチできていない部分があるかもしれない。もちろんできている部分もあるとは思うけど。でも、センス以外の部分はもう経験でしかないと思うんですよ。場数を踏むしかないし、あとは自分の認知度とか、そういうのも含めて現場にもう少し影響を与えられるというか、いい意味でコントロールできるようになっていけたら、と。
──勝手を知っている日本の現場とは違うわけで、ハードではないですか?
そうですね。でもそういう現場だと、10代の後半にあった「まだ何者でもない自分」というか、「よし、これで頑張っていくぞ」っていう気持ちをもう一回味わえてるんですよ。当時は本当に素人だったけど、今はやれることは増えている。一周回っていろんなことを体得した上で、もう一回新人をやれる、という気分なんですよね。得した気分ですよ。「お前なかなかやるじゃん、お前超いいじゃん」みたいな反応が来て、いやいやもう30年近くやってるんだけど、っていう(笑)。
──先ほど笠松さんに「ギラついた感じ」という表現を使われていましたが、窪塚さんも30代の頃はギラついていたんでしょうか?
うーん、自分は30代は卍LINEでレゲエの方にギラついてましたね。あの頃は「俳優はアルバイトです」とか言ってたから。20代の前半はギラついてたかなと思うけど、怪我があって、レゲエやるようになって……ってしてる間に、『沈黙―サイレンスー』でのマーティン・スコセッシとの出会いがあって。そうなった頃には何かもう、「一周回った」気がしたというか、悪く言うとハングリー精神がなくなったかもしれない。「やりたくないものは無理にやらなくてもいいかな」というチョイスを持ってしまったというか。もちろん「やる」と決めたらやり抜いて丁寧にやるけど、「その仕事を喉から手が出るほど取りに行きたい」というような気持ちはなくなったかもしれないですね。
──でも、「やりたい」と思う仕事はあるわけですよね。
もちろんです。
──そういう仕事を選ぶ基準は何なんでしょう?
それはもう、直感ですよね。やったことがあるような役でも、この座組でこの並びでこの監督ならやってみたい、とか。全然やったことがない役でも魅力を感じたらやる。直感が一番いいなと思うし、ほぼ外れないんですよ。
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