観る者の背中を押すストーリーとキャラクターの魅力を解説
Hey! Say! JUMP伊野尾慧が初ミュージカルで奮闘!『ハネムーン・イン・ベガス』上演開始
2024.04.10 17:30
2024.04.10 17:30
Hey! Say! JUMPの伊野尾 慧が主演をつとめるブロードウェイミュージカル『ハネムーン・イン・ベガス』が4月9日(火)より池袋・東京建物Brillia HALLにて開幕。それに先駆け、4月8日(月)に公開ゲネプロと記者会見が行われた。
今作は1992年に大ヒットしたニコラス・ケイジ&サラ・ジェシカ・パーカー出演の同名映画を、監督・脚本を手がけたアンドリュー・バーグマンが自らミュージカル化したブロードウェイの人気作。ラスベガスとハワイを舞台に、結婚に臆病な主人公とその彼女が巻きこまれていく騒動を、コミカルな演出で描いていく。
ジャック(伊野尾 慧)は5年越しの恋人ベッツィ(松田るか)との結婚を夢見ているが、死んだ母親のビー(霧矢大夢)から言われた「誰とも結婚しないで!」という言葉に縛られ、結婚指輪を買うことさえできない。そんな「母の呪い」から逃れ、結婚式を挙げようと訪れたのはラスベガス。滞在先に選んだのはロック歌手のバディ・ロッキー(上口耕平)がカジノでショーを披露し大盛り上がりしているホテル・ミラノだったが、そこでギャンブラーのトミー・コーマン(岸 祐二)と鉢合わせてしまう。ベッツィを見たトミーは驚愕、なんとトミーの死んだ妻にベッツィは瓜二つ! トミーはジャックからベッツィを奪おうと、子分のジョニー・サンドイッチ(小柳 友)とともにジャックを陥れ、ベッツィを連れてハワイ旅行に出かけてしまう。ジャックも二人を追ってハワイへ向かうが、そこにマヒ(青野紗穂)という名の女性が現れ……果たしてジャックは彼女を取り戻し、無事に結婚することができるのか? というストーリー。
ジャックを演じた伊野尾は、9年ぶりの舞台出演にして実は今作が初ミュージカル。記者会見でも「普段もHey! Say! JUMPで歌を歌わせていただいてはいますが、普段はやっぱり力強いメンバーがいるので、7人に支えられながら歌ってるのとはまた話が全然変わってくる。最初は『うーん、大丈夫かな』という心配はありました」と初めてのミュージカル出演に対して不安を吐露していたが、実際の舞台を見てみるとそんな心配は無用! 全編にわたり歌い、踊り、喜び、焦り……見事なミュージカル俳優ぶりを見せつける結果に。
ストーリーを読めば分かるようにこの『ハネムーン・イン・ベガス』というのは基本的にジャックがさまざまなトラブルに巻き込まれてく作品なのだが、このジャック、おそらく現実にいたらかなりイライラするタイプのキャラクターなのは間違いない。「母親の呪い」があるからといって5年も交際している彼女との結婚を回避し続け、せっかく意を決して行ったラスベガスでは調子に乗ってしまいトミーの張った“罠”にまんまとハマり、愛しのベッツィがトミーと一緒に過ごす状況を作り出してしまう。要は「ダメ」なのだ。
しかしそんなキャラの主人公が今作で観客の共感を得ることに成功しているのは、伊野尾 慧という人が持つチャーミングさと人間力、それがジャックのダメさ加減をいい感じにマイルドにしてくれ、「等身大の人物」として見せてくれているからだ。もちろん、長年のアイドル活動で培ってきたダンスや歌のスキルもバッチリ。というかこのジャックという役、伊野尾自身も会見で口にしていたがとにかく全編にわたって出演し続け、歌い踊るナンバーが相当多いハードな役だ。それを初ミュージカルでこなすのは見事と言うしかなく、今作は彼以外のキャスティングは考えられないのでは? と思うほど。
また、ジャック以外のキャストに関しても芸達者さを見せてくれる人たちが揃った。ベッツィを演じる松田るかは、ミュージカル出演2作目とは思えない堂々たるステージング。芯が強くて可愛く、愛情深いベッツィ役が非常に似合っている。見事なロングトーンの歌唱やくるくると変わる衣装など、見どころは満載だ。
ジャックからベッツィを奪うトミー役は、本格ミュージカル作品に数多く出演してきた岸 祐二なだけあり見事な歌唱力。彼の持つ大人っぽさ含めジャックとの対比がきれいなコントラストになっていて、舞台上の三角関係が観ていて非常に面白い。ジャックに“呪い”をかける母親役は、宝塚の元トップスターで今やミュージカル女優として大活躍する霧矢大夢。数少ない登場ながら相当のインパクトを与える役、これは彼女の実力と存在感ならでは。2役で舞台上に華を添える上口耕平、ジャックの腰巾着であるジョニー役の小柳 友、ハワイでジャックを誘惑(!?)するマヒ役の青野紗穂など、どのキャラクターも物語の絶妙なスパイスに。
ベッツィはジャックを捨ててトミーを選んでしまうのか? ジャックはベッツィと再会できるのか? 紆余曲折とドタバタはありつつも、最後は大団円という王道のミュージカル。幸せを呼び込むのは偶然や運などではなく、ジャックが振り絞る勇気(これが何かは見てのお楽しみ)であるところもなんとも気持ちが良い。というのもジャックが抱える“親の呪い”、彼ほどの人はそういないとは思うものの、多少は誰もが抱えているものでは? 「“お前はこうだから無理だ”と言われた」「“お前はダメだ”と言われた」……そんな親の言葉が大人になっても枷として存在している、そういう人は意外と多いはずだ。この作品はそういった観る人の抱えた“呪い”に気づかせ、それを外してくれる役割もあるのかもしれない。
コミカルさに笑って、華やかなステージングを楽しんで、最後はハッピーに! 新生活が始まるこの季節、一歩を踏み出すために背中を押してくれるようなパワーを持つ作品だ。