ファンへの“直接サブスク”で音楽業界に一石を投じる?
ジェイムス・ブレイクが新たなプラットフォーム「Vault」でアンダーソン・パーク参加の新曲公開
2024.03.26 22:20
By Knar Bedian - James Blake at the Wang in Boston, CC BY 2.0
2024.03.26 22:20
ジェイムス・ブレイクが、アンダーソン・パークとJIDをフィーチャリングした楽曲「Affection」を新しいストリーミングプラットフォーム「Vault」上で公開した。
「Vault」はアーティストと直接つながり、未発表曲を月額制で聴くことができるプラットフォーム。SpotifyやApple Musicなどのストリーミングプラットフォームと違い、アーティストが設定した金額でアーティスト本人に“直接サブスク”することができる。
ジェイムス・ブレイクは先日、ストリーミング時代における音楽業界の問題について語っており、アーティストが経済的に追い詰められる現状をSNSで投稿していた。
「一週間前ぐらいに、ストリーミングプラットフォームやTikTokがアーティストに適切な報酬を払っておらず、アーティストが生活をできないと説明した僕の投稿がバイラルになった。実際の数字を与えたい。プラットフォームによるけど、1回ストリーミング再生されたら0.003ドルから0.005ドルの報酬が支払われる。100万再生されたら3000ドルになる。
そこからレーベルと契約していたら、最低でも50%はもっていかれるし、マネージメントに15%〜20%ほどの手数料が取られる。そこから税金とレコーディング代などが引かれるし、アーティストとして生活するのは無理なんだ。実際にSpotify上のアーティストのうち、月間リスナー1000人を超えているのは19%のみだ」
このような問題定義を受けて「Vault」はジェイムス・ブレイクに連絡をし、今回のパートナーシップを組むことになったという。ジェイムス・ブレイクはアーティストに“直接サブスク”する方法が問題の解決策になると考えているようで、「この直接サブスクするというコンセプトで業界を変えることができると思うし、アーティストが囚われた堂々巡りなシチュエーションから抜け出せると思う」とも語った。
アンダーソン・パークとJIDをフィーチャーした楽曲「Affection」は、ジェイムス・ブレイクの「Vault」ページで月額5ドルで、過去にアプリ上でリリースされた4曲とともに聴くことができる。
— James Blake (@jamesblake) March 23, 2024
近年、特にストリーミングプラットフォームに対して疑問を投げかけているアーティストも多い。昨年の11月には、Spotifyがアーティストに支払うロイヤルティの基準を見直すと発表しており、「過去1年間で1,000回以上再生された楽曲のみがロイヤルティ配分の対象になる」とのポリシーを公開していた。より多くの額をアーティストに還元するための施策だとSpotifyは答えているが、Spotifyカタログの大半を占める規模感が小さめのアーティストに配分されるはずの金額が、人気アーティストに受け渡される形になるとの批判も集まっている。
「Vault」のようにアーティストに直接サブスクできるプラットフォームとしては、「Patreon」やインディペンデントアーティストやコアな音楽ファンも多く使用している「Bandcamp」などもあるが、Bandcampは昨年の10月に音楽ライセンス会社Songtradrに買収され、スタッフの約半数がレイオフされたと報道されていた。
ジェイムス・ブレイクの「Vault」でのリリースには称賛だけではなく否定的なコメントも集まっており、「多くのアーティストがVaultでリリースすることになると、消費者の月に音楽に支払う金額が高価になりすぎるのではないか?」という疑問も挙がっている。特に小さいファンベースで活動するインディペンデントアーティストには有効かもしれないが、ジェイムス・ブレイクのような知名度のあるメジャーアーティストが参加することにより、既に小さい市場を奪うことになるとの批判も見受けられている。