2024.03.04 18:00
2024.03.04 18:00
1人の人生を変えられる以上の報酬はない
──実際に世界的なアーティストから連絡が来るってのはどんな気分なんですか?
現実じゃないみたいな気分にもなるよ。でもさ、結局のところ一人の人間って感じなんだ。彼らは誰がみても成功者だけど、よくよく本人に会ってみれば、その成功が偶然じゃなくて人生の全てを賭けたことがそこに繋がっているんだってことが分かる。彼らは並々ならぬ野心と、コミットする気概と、芸術的好奇心を持ち合わせているんだ。そして成功しているアーティストの中には、常に変化を受け入れる人もいる。ご存知のとおり、トラヴィス・バーカーやマイク・シノダのような、20年、30年にわたって芸術の再発明している素晴らしいアーティストは、自分自身をあまり小さな枠内に定義しないことで、それを実現している気がするよ。そうじゃないと、20年やってて未だにロックキッズに刺さる音楽をプロデュースし続けることなんかできないよね。
つまり、若いアーティストと仕事をしてその好奇心を維持することが、僕が彼らとコラボレーションすることができた理由でもある。大物アーティストと一緒にスタジオにいることやステージを共有することで、多くのことを学べたよ。そして最終的にその学びが、自分のキャリアや音楽性をしっかりとネクストレベルへ押し上げるための指針になると思う。
──今考えるゴール、野望や目標みたいなものはありますか? たとえば何かの賞をもらうとか。
うーん、わからないなぁ。東京ドームでライブもしたいし、そういった目標も重要だとは思うよ。でも、まずはできる限りリアルであるために努力したいし、近道をせずに物事を正しい方法で続けていきたいね。で、賞に関しては、いってみれば音楽活動の鍛錬の副産物だと思う。今までに学んだひとつ大事なことといえば、自分の目標が他人の期待を中心に設定されてしまっている場合、不幸を招きかねないってこと。たとえトップにたどり着いたとしても、自分の夢が叶ったと感じるために他の人が必要であれば、それは不幸になると言える。
すでにアーティストとして夢に見た以上のことが起きていて、僕が生み出した音楽が何十億回も聴かれ、世界中を旅することができている。だから今の目標は、歳を重ねるにつれて本当に自分が誇りに思えるような、唯一無二な作品を生み出していくこと。その他のことは後からついてくると思ってる。かつて僕が憧れていたもの……たとえばそれが何かの賞だとして、それは言ってしまえば高校時代の人気コンテストみたいな浮ついた感じのもので、ほかに替えが効くものなんかあまり意味がないんだ。
だから、自分が向かいたい先に進むために、自分の誠実さを犠牲にする必要なんかない。幸運にも僕には、インスピレーションやモチベーションを与えることができる人たちがそこにいる。そのために僕は作品を作り、届け続けるつもりだよ。今夜、grandsonのショーに来る人のためにしっかりと音楽を届ける。お客さんの入りが多いか少ないかなんて、そんなことはどうでもいい。もし僕が今夜1人でもお客さんの気持ちを救うことができるなら、その人のために素晴らしいショーを全力で見せるつもりだよ。そしてその1人が、2人にそれを伝えるなら素晴らしいサイクルじゃないか。もし、僕が本当に意味のあるレベルで1人の人の人生を変えることができたら、アーティストとしてこれ以上の報酬はないね。しかも僕がそれが現実に起きていることを経験してきている。だから最初の質問の答えとしては、目標や期待は変化しているけど個人的に達成するべきことはしっかりと見据えているよ。
──grandsonの歌詞を書くことは、ある種、傷つく作業のようなものではないですか? 自分自身や人々が、箱に入れて脇に置いているものをわざわざ開けて、より深く掘り下げることをあえてするという作業ですよね?
まさにその通り。自分に向き合うことで傷つきやすくなるよ。それこそ心理セラピストと向き合いながら何百ページも、何百もの曲を書いたりして、自分自身についてより深く理解することができるようになればなるほど、そしてそれを私的にも世の中的にも表現して発信すればするほど、ベッド下のモンスター(未知なる恐怖心)を解放することができるんだ。だから、ステージ上では開放されてエモーショナルに怒りを表現できるし、今この状態ではフラットに、冷静で自信を持った状態でいられる。ソングライティング中はとても不安な状態になるからね。
別にロックスターになる必要はないんだけど、僕のこういう何かを生み出すプロセスは、このインタビューを聞いたり読んだりする人にとっても有益になる可能性があるから、心の浮き沈みを表現して自分と向き合う作業は、最初はぎこちないかもしれないけど、やってみて良いと思う。生死感の確認というか、自分の中にそういうスペースがあるのはとても大切だと思っているよ。紡ぎ出したストーリーが伝わって人を助けることができるよう切に願ってる。それが僕にとってのロックンロールであり、世界の他の国と同じように、ここ日本でもいろんな人たちと共振して大きくしていきたいんだ。
──そういうメッセージを英語が苦手な人にも届けるために、ミュージックビデオには日本語バージョンの歌詞があるといいですね。
そうだね、それはいいと思う。翻訳バージョンを出したり、日本のアーティストとコラボして曲を出したりする機会がもっとあると良いな。それはまじでクールだね。
──grandsonのサウンドだけじゃなく、メッセージに触れることで助けられる人はもっといるはずですよ。
絶対やりたいね、その通りだと思う。