2024.03.04 18:00
2024.03.04 18:00
ロックンロールの歴史に新たな文脈を
──今の話を聞くと、さまざまな楽曲、アルバムのサウンドがより理解できる気がしますね。
そうだと良いな。電子音楽の要素を取り入れ、ロックンロールの怒りとエネルギーをヒップホップのストーリーテリングに導入できるか?ということが、自分の作品作りで注力した部分だけど、まだ完成したわけではないと思っている。常に何かに影響や刺激を受けて、それを表現に変え、常に試行錯誤を繰り返す長い旅のようなものなんだ。日本でも、アーティストたちがいろんな文化や音楽的要素を歴史的にうまく受け継いでいるように、僕も今やっている表現方法が先人たちからの影響下にあって、伝統の良い部分を引き継いでいるんだ。
──最新作は、サウンドアプローチ的には前作に比べて少し落ち着いた、音楽的洗練を感じましたが、音楽的に進化している点など意識はしていますか?
ああ、細かいところまで音源を聴いてくれていてありがとう。 僕にとってロックの曲を書くプロセスは広がりや変化を伴うものだと思っているんだ。最初のアルバムを出した直後にパンデミックが起こって、ずっと屋内で過ごしてた時期があったよね。で、そのあと音楽キャリアが上向きになって突然何百ものショーを行い、世界最大のバンドの前座を務めるにまでなった。すごいことなんけど、活動の規模の大きさを自慢するのが目標なんじゃなくて、聴いた人が特別に感じられる音楽を作る事が大事なんだ。ファンのみんながリアルに聴き入って、感じ取ってもらえる価値のある音楽を作りたい、というのが本質かな。本当にオリジナルで他に類を見ないものをね。
それが結果的に、以前のサウンドイメージだけでない物を取り入れることに繋がって、オルタナティヴラップやオルタナティヴロックのようなものを、もっとソフトな方法で取り入れたプロダクションを目指すことになったというわけ。 歌詞的には、ファンに自分のことをもっと知ってもらいたくて、家族の話や依存症の歴史、自分の精神的健康や、音楽業界との関係についてのトピックを掘り下げていったんだ。曲自体の意味がかなり重層的だから、プロダクションに関しても君が指摘してくれたように、より洗練されたものとなるように心がけたよ。 最新アルバムは、特別な経験から得られるものや心情の深い部分の表現によって、自分にとって特別なものになった。そしてこのアルバムを持って再び世界中を旅して、聴いた人が僕の音楽に強く惹かれ、共感していることを感じ取ることができてるんだ。
作る時に考えていたことは、前作のアルバムの怒りを表現するロックのスタイルで知られたイメージから、アーティストとして自由になるために、これまでとは違うアルバムを作らなければならないということだった。他の人が望む自分を表現するんじゃない。だから、新作に向かうってことは、芸術的にこれまでとまったく異なるものを作るという一種の反逆でもあった。自分がコントロールできるステアリングホイールを、自分自身の手に取り戻すんだっていう気分だったな。音楽業界の舞台裏や、自分自身のメンタルヘルスに関して多くのことに向き合っていくこと、そしてこの旅を続けるモチベーションを見つけるために、自分自身と周りの環境などを本当に深く掘り下げる必要があったんだよ。そして今、こうやってその先にある最高なことを実現させているんだ。
特にパンデミックの最中には叶わなかった、とても遠くに感じられたような街でのパフォーマンスも実現して、自分としては新しいアルバムを作ったことで、次の音楽的な旅の準備もできていると感じてるよ。怒りやエネルギーの解放をみんなに届けるという使命と機会があるってことが、本当に幸運だと感じている。もちろん困難だって経験しなくちゃならないけど、今はこれまで以上に、音楽や他の人々のために自分が果たせる役割を認めて受け入れているし、それは最終的には自分にも返ってくる。10代の僕が心のモヤモヤを汲み取ったり発散させてくれるロックを探していたときのような、あの感情が戻ってきてるんだ。
──ブレイクを果たして世界に名が広まっているタイミングって、ちょっと難しくはないですか? ヒットした曲たちのサウンドイメージを求める人がいる一方、自分はどんどん先に進化していく。古い固定されたイメージやスタイルへのオファーみたいなものもありませんか。
そうなんだよ、本当に。まぁ、ありがたいことにいろんな人たちと仕事ができてるし、僕はいろんな種類の音楽が大好きだから、これまで様々な要素を提供できてきたんだと思ってる。ケシャのようなポップアーティスト、スティーブ・アオキのようなエレクトロニックアーティスト、マイク・シノダのようなロックバンド、ロックアーティストとも一緒にやれてるのはそういうところだと思うよ。でもその経験があるから、これからは自分に何ができるかってことにしっかりと向き合えて、これからはもっと慎重になって選ぶことができるんだ。
世界最大のDJと仕事をし、アリーナやスタジアムでパフォーマンスする機会をもらっても、流されちゃいけない。自分の使命を明確にできなくちゃ、他の人へのサポートはおろか、自分の道を見失う危険があるってこともわかったんだ。期待され、オファーももらって、たくさんの人の前で演奏することももちろん良い経験だけど、それは必ずしも創作活動にとってはベストではないかもしれない。だから僕はもう少し戦略的になってるよ。そして自分がワクワクできないことはやらないって決めた。僕はポップミュージックやエレクトロニックミュージックが大好きであると同時に、自分が最も得意なことは何かを知っているんだ。人が僕に求めるイメージも客観的にわかってるよ。
毎日、何百・何千ものアーティストが素晴らしいポップソングを、素晴らしいダンスビートを生み出している。じゃあ自分は?ってなると、ロックンロールの長い長い歴史に新たなひねり、新たな文脈を加えることが答えかな。ジャンプしたりモッシュしたりして、汗と血にまみれたライブをぶちかます、そんなエネルギーも表現したいって考えている。
次のページ