関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ! 第18回
人間の記憶は曖昧で脆い、リーアム・ニーソンが“遅咲き”ならではの魅力を放つ『アンノウン』
2024.01.21 12:00
2024.01.21 12:00
シニア世代の活躍には元気をもらえる
本作の主演を務めたリーアム・ニーソンは、もともと『96時間』の元工作員役がめちゃくちゃ強かったからそういうイメージがあるけど、それよりも“苦悩するキャラ”が似合う。同じアクション俳優でも、ジェイソン・ステイサムってあそこまで苦悩しないと思うんですよ。ドウェイン・ジョンソンとか。彼らはアクション、肉体でぶつかっていく。この2人に対してニーソンは裸にもならないし、人間味があるんですよね。地に足がついている。だからアクション俳優と、実力派俳優の両方を兼ね備えている。どちらもできる俳優さんの印象です。現役で今もアクションをしていて、すごい。
彼は鋭い蹴りは出さない代わりに、手をかがめるような合気道的な動きがいい。そして身長がめちゃくちゃ高くて横にも大きいから、体の絡ませ方がうまいんですよね。他の俳優はハイキックとか後ろ回しで魅せるけど、ニーソンは実践的な戦いが魅力的です。年齢も渋みがあって良い。多分サモ・ハン・キンポーと同じくらいなんじゃないかな。でも、もう彼にはニーソンのようなアクションはできないからね。
彼はとにかく、苦悩する姿や困惑する姿がすごく似合う。『96時間』なんかまさにそうで、娘のために頑張る様子は娘を持つ身からすると「頑張れ……!」って応援しちゃう。そして不器用で、奥さんの気持ちがわからなくて。ああいう可哀想なところとか、いいんですよ。僕、彼の出演作だとサム・ライミ監督の『ダークマン』が好きです。
あとこの前、『ダーティ・ハリー』シリーズを見ていたら、5作目でニーソンが映画監督の役で出ていました。俳優が死んでしまって、彼はダーティ・ハリーに「犯人じゃないのか」って迫られるんですけど、クリント・イーストウッドと二人で並ぶ姿はどちらも背が高いから迫力が凄くて。でもまだニーソンはあの時30代くらいだから、顔がまだ今ほど渋くないの。まだスターにはなっていない感じ。あの人は歳をとってからスターになった顔だと思います。
彼のような少し遅咲きの俳優だからこその魅力って、あると思う。地道にやってきた証拠ですよね。イーストウッドも30歳過ぎで『荒野の用心棒』で当たったから。彼はスティーヴ・マックイーンと同い年なんですよ。ところがイーストウッドの方が何故か年代的に「後の世代の人」に思えるじゃないですか。それは、スターになったのがマックイーンに比べて遅かったからなんですよね。そういう世代のイメージって、いつ俳優が売れたかで違う。だからニーソンも今年72歳だけど、ブラッド・ピットより後の俳優さんみたいな印象がある。ちなみにピットは今、60歳ですよね。
シニア世代の俳優の活躍には元気をもらいます。トム・クルーズも60歳を過ぎたしね。ステイサムも50歳をすぎている。スタローンも現役で頑張っているし、彼はもうアクション映画のチャンピオンだと思います。
そんなアクション俳優の中でも独自の魅力を持つニーソンが、『アンノウン』では良い芝居と動きを見せてくれます。主人公が一体どういう人間なのか、考えていくのが大変面白い作品です。そして驚きの結末が、素晴らしい。