2023.12.30 17:30
2023.12.30 17:30
歌詞を書くスタイルは北の影響が大きい
──本当にその通りだと思いますね。ドラムもギターも引き出しがバンバン開いている感じがしますし。
山本 クジラ夜の街の作った曲の集まりって、最初は結構一個にギュッと固まっていたというか、どれを聴いても結構似たような質感だったと思うんです。でもこのアルバムははクジラ夜の街の作った曲っていう根幹はありつつ、各曲がすごくいろんな方向に足を伸ばしたというか、広がった感じがして。だから今までよりたくさんのリスナー層に刺さるような作品になったんじゃないかなと思っています。
──そうなったのはどうしてだと思います?
山本 個人個人のアイデアが増えたとか経験値が増えたっていうのもそうなんですけど、やっぱり「ファンタジーを創るバンド」っていうコンセプトを決めたのが大きいと思っていて。それがあるから、いろんなことをしてもまとまりがあるというか。コンセプトが決まっているから、全部「クジラ夜の街が作ったもの」としてまとまっている感じがします。
──確かに以前のアルバムを聴いていると「このアルバムはこの色」みたいな感じがあったけど、今回は本当にカラフルですよね。佐伯さんはどうですか?
佐伯 絶妙なバランス感で噛み合って、すごくいいアルバムになったなと思います。リアルをファンタジーに落とし込んだ曲もあるし、「輝夜姫」だったら和製ファンタジー、「マスカレードパレード」ならダークファンタジー。「ロマン天動説」のしっとりとした曲調があったり。「ショコラ」みたいなラブソングがあったり。一見バラバラではあるんですけど、通して聴くと一貫性あるなという。この絶妙なバランス感がすごくよくなっているなと思います。
──うん。今作ではクジラ夜の街が謳う「ファンタジー」のキャパシティが大きくなった感じがするんですよね。だからリアルなことも歌えるようになったし、さまざまな風景を描けるようになった。
宮崎 そうですね。ただファンタジーを歌うだけっていうのが一番違うなと思っていたんですよね。キラキラしているだけのものを「これがファンタジーです」って言ってとりあえず楽しいねってなるというのは、作曲者がファンタジーという題材に胡座をかいている状態だと思うんです。そうじゃなくて、「じゃあファンタジーって何なんだろう?」「ファンタジーを名乗った上で何を表現するとよくなるんだろう?」「他の人がやっていなかったことは何だろう?」っていうのをすごく考えて歌詞は書きました。
「輝夜姫」がそれをいちばん考えたかな。これは死別について書いているんですけど、自分も親戚や祖母を亡くして、身近な人の死を体感したんですよ。そういうプライベートのことに触れるか触れまいかはずっと考えていて。そういう時に、ファンタジーというものはただただキラキラしている、そこなしに明るいだけではないなと思ったというか。そういう時って人は辛い現実から目を背けたくなるけど、ただ現実逃避をするための道じゃなくて、逃避した先で答えを提示するまでが真の幻想であり、救いとなるファンタジーだと思ったんです。「輝夜姫」では〈取り残された〉という言い方をあえてしていますけど、取り残された生者たち、命がある人たちがこれからどうすべきかという非常に現実的な問題を歌っていますし、「踊ろう命ある限り」とかもまさしくそうですし。この『月で読む絵本』ではいちばん。ファンタジーという言葉に逃げずに立ち向かいました。
──ファンタジーとの向き合い方というか、ファンタジーの定義というかが、まさに「踊ろう命ある限り」くらいから急激に変わってきた感じがしますよね。
宮崎 やっぱりそれこそ北も言いましたけど「ダサさ」ってあると思っていて。ファンタジーっていうものは結構そこが際どいんですよね。だから歌詞を書いていると北の顔が浮かびます。「これ、ダッセえって言われそうだな」とか。実際にはそんなこと言わないんだけど、そう思われるかもなっていうのは、つまり俺が思ってるってことなんですよ。北はダサい歌詞を書かないんですよ。逃げない歌詞を書く人なので、それは見習うところだと思っています。今、僕がこうしてファンタジーとちゃんと向き合って、少し共感性は低いかもしれないけど、自分なりの勇み方で歌詞を書くスタイルっていうのはやっぱり彼からの影響が大きいと思いますね。彼が最終審査員としていてくれてるという感じはありがたいですね。
──まさにそういう存在、そういう関係性でやってきたということですよね。
宮崎 ただ、このアルバムにまったく満足はしてないんですよ。もっともっと上があるだろうと思うんです。現状で出せる全部は出したと思ってるんですけど、出した後にまたレベルが上がってる感じがするんです。今回はわりとひとり、孤独というものと向き合って作ったんですけど、ここからは、メンバーもそうですし、今までの友情とか頼りのある人たちと一緒に作っていきたいなという気持ちがあって。次はもっともっと、それこそ北と喋りながらできる歌詞みたいなものにしたいですね。
──この対談が次に向けての伏線になるかもしれないですね。
宮崎 そうですね。君たちのこの前のアルバムもそうだし、この『月で読む絵本』も完全に別個で作ったじゃん。だから次は喋りながら作ってみたい。
──確かにこのアルバムには次への始まりという感じもありますよね。
宮崎 そう言っていただけると嬉しいです。アルバムの最後の音が次のアルバムの伏線になると僕は思っているので。僕は今、本当に曲を作りたくてしょうがないですね。
北 俺はそうでもない(笑)。アルバム1枚作って疲れた。
宮崎 作ろうぜ! 今日対談をしてやっぱり喋りたいなと思ったから、また音楽の話、しよう。