本間昭光のMUSIC HOSPITAL 第13回 矢作萌夏
矢作萌夏に見るハングリー精神、活き続けるアーティスト特有の“嫉妬心”とは
2023.11.24 19:00
2023.11.24 19:00
日本を代表する音楽プロデューサー・本間昭光が若手を中心にさまざまなフィールドで活動するアーティストを招いて対談を送る「本間昭光のMUSIC HOSPITAL」。今回より引越したばかりの本間の新たなプライベートスタジオにて、自由な音楽談義を繰り広げる。
そんな新拠点に迎える最初のゲストは、2020年にAKB48を卒業し、今年シンガーソングライターとして新しいスタートを切った矢作萌夏。収録全曲の作詞・作曲を担当したメジャー1st EP『SPILIT MILK』の制作裏話や知られざるバックボーンなど、現在の活動に至るエピソードの数々を明かしてくれた今回の対談。矢作の止まらない創作意欲を生む、日頃感じている“嫉妬”の正体とは?
自分の中に染み込んでたものが多かった(矢作)
本間 今日は矢作さんにいろいろ質問しようと思ってます。
矢作 え、やば! どうしよー(笑)。
本間 AKB48当時からシンガーソングライター志向があったんですか?
矢作 全然なかったです。AKB48になってセンターになったり、ソロコンやらせてもらったり、恵まれた環境でした。“AKB48グループ歌唱力No.1決定戦”というイベントがあって2回出たんですけど、1回目は準優勝で「悔しい」と思ってめっちゃ練習したら、最後の大会で優勝できて。ただもう卒業するのは決めてて。高3の時期だったので、芸能界も引退して普通の大学生に戻ろうかなと思ってました。でもそのとき審査員だった井上ヨシマサ先生と、ゴスペラーズの黒沢さんが「音楽辞めないでほしい」とすごく言ってくださって、「じゃあ、ちょっとやってみようかな」って。ヨシマサ先生が楽器屋さん紹介してくれて、私の実家にも機材いっぱい持って来てくれて。しかもヨシマサ先生が大学生のときに貯金崩して買ったキーボードを私に譲ってくれて、「これで曲作って。がんばって」と言ってもらって始まりました。
本間 ヨシマサくんと黒沢くんが入れ込むってすごいよね。でも、わかる。声が強いんですよね。声って作ろうと思っても作れないから、それで彼らも辞めないでほしいと言ったんだと思います。歌唱力ってランクのつけ方がよくわからないですよね。
矢作 そうですよね! わからないです……。
本間 ある人は最高だと思っていても、全然響かない人もいるかもだし。日によっても環境によっても違うじゃないですか。寒い冬と暑い夏とでは歌い方も違うし。声って本当にいろんな色をつけられるから、そこにふたりが可能性を感じたんじゃないかな。実際曲作り始めてどうでした?
矢作 音楽が昔からめちゃくちゃ好きでいろんなジャンルを聴いてたから、作り始めたらいっぱい生まれたというか、自分の中にボキャブラリーとか染み込んでたものが多かったので、楽しみながら作れました。
本間 歌詞と曲どっちを先に書くことが多いです?
矢作 タイミングやメンタルで違うかもしれないです。基本はメロディ書いてから歌詞を書いてます。でも、思いが熱いときは歌詞からバーって書いたりもあります。
本間 最近アーティストに推奨してるのは、詞から書いた方がいいこと。
矢作 やっぱり! どうしてですか?
本間 無理がないんです。
矢作 なるほど! ナチュラルに書けるってことですね。キャッチーなメロディを作れなかったらどうしようって思いません?
本間 キャッチーな言葉があればいいんですよ。
矢作 なるほど!(拍手)
本間 メロディはスタッフと相談すればいいと思うのね。いろんな人が周りにいるわけで。例えば、今はアメリカでこういうのが流行ってるよ、とかアドバイスをもらって直したりもできるから。
矢作 超柔軟性ありますね! ヨシマサ先生に教えていただいたこともあるけど、何回も聞くのは申し訳ないので、YouTubeとか本とか見て作曲の方法を勉強したんです。やっぱり教科書だから順番が決まってるじゃないですか。まずコード決めて、メロディ決めてって。でも歌詞から柔軟にやっていくのもいいですね。
本間 レコーディング終わるまで、最後の最後まで直せるわけだから。それはアーティストの特権ですし。オケを録り終わって、メロディと歌詞を変えたいなっていうのも全然OKなわけで。ただYouTubeで学ぶのはあまり推奨はしないかな(笑)。テイラー・スウィフトはスタジオでぶらぶらしながらギター弾いてる間もプロデューサーがずっとレコーダーを回し続けてるんですって。それで「今のその感じでやろう」と瞬間を切り取ってそこをどんどん広げていく。まずは自分のスタイルを探していくのが一番いい気がするんですよね。
矢作 自分のスタイルか……模索中でございます。
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