2023.10.20 19:00
2023.10.20 19:00
過去の自分からの学びも取り入れる
──「ファントム」は「ヴィラン」というテーマに沿うだけでなく、超学生さんの歌唱を生かしたソングライティングやボーカルワークも印象的でした。
DECO*27さんは耳がすごくいい方なんですよね。だから提供曲ではちゃんと相手の声に合った言葉選びや音遣いができるんだろうなと思います。でも最初は「自分の声がこのトラックに乗るの?」と萎縮したというか、楽曲自体にかなり気圧された感覚が正直ありました。楽曲が内包しているエネルギーが相当大きなものかつ凝縮されたものだったので、ボーカル次第でさらに大爆発する曲だろうなと感じて。だから頑張って作んなきゃという気合いが入りました。あとDECO*27さんが、カリスマ性のある一匹狼みたいな男性的なキャラクターを描いた曲は、あんまり聴いたことがない気がしてて。
──確かにそうですね。
すごくそこは新鮮でした。四つ打ちのドラムやベースがメロディを先導してくれたので気持ちよく歌えましたし、あと僕にしては高いキーが多いので、どう歌おうかはすごく悩みました。高い声は僕の個性が発揮しづらいけど、それを優先させるとDECO*27さんの曲の雰囲気とはちょっとずれるかな……とか。仮歌からDECO*27さんの「こんなふうに歌ってほしい」というイメージが伝わってきたので参考にさせてもらいつつ、同時に超学生が歌う意味をちゃんと作りたいなとは思って。僕のリスナーさんには「ファントム」みたいなエレクトロスウィングやジャズ寄りの曲が好きな方が多いので、そういう皆さんの前で歌っているような感覚で歌入れをしましたね。
──ガヤとまでいかない、効果音的なボーカルが多数入っているのもフックになっていると思いました。
あれは僕の独断でレコーディングして、「要らなかったら消します」と提出したら特に指摘はなかったので(笑)、そのまま使いました。普段から僕が歌ってみたでもよく使う手法で、最初にやってみたのはFAKE TYPE.さんに提供していただいた「Innocent Tyrant」(※2021年11月デジタルリリース)ですね。FAKE TYPE.さんの曲にもともとそういうボーカルテイクがいっぱい入っているので入れてみて。その後、缶缶さんとのオリジナル曲(※2022年8月公開の「ドロシー / 缶缶 feat.超学生」。)で、エンジニアのbizさんが「自由に何か入れてください」と言ってくださったんです。そこきっかけで、こういう効果音みたいなボーカルテイクをもっと学びたくてヒップホップをいっぱい聴くようになりました。「ファントム」はBメロがラップなので、入れられるなと思ったんですよね。
──今までの超学生さんが培ってきたものを生かすと同時に、その魅力をまた違った方法で引き出していくことに成功したのが「ファントム」なんですね。
今までは無意識のうちにやっていたり、偶然の産物で生まれるようなこと多かったので、今回はそこに対して意識的になっていますね。昔のプロジェクトファイルを開いて「昔の自分はどうしてたっけ?」と確かめながら作業することも多いんです。あと、恐れずにリファレンスすることを目標にしていて。
──そういうことは今までしてきませんでしたか?
ミックスする前に参考程度に聴くことはあったんですけど、聴き比べすぎると影響されすぎちゃう気がしていたから、あんまりやってなかったんです。でも比較するからこそ、今の自分の足りないところが浮き彫りになると思うんです。それに「影響されすぎちゃう」というのも、もしかしたら気のせいかもしれない。ボカロPも僕がミックスした音源を聴くわけなので、より良いものを作りたくて勇気を持ってがんがん聴き比べてます。
──ほかの人や昔の自分から教わることも、たくさんありますものね。
今は今後リリースされる楽曲の作業をしているんですけど、ベストなボーカルミックスはインストによって変わってくるので、「今回の曲はどうするのがいいんだろう?」と毎回悩みながらこのプロジェクトを進めていますね。よく音楽に関して「正解はない」って言うじゃないですか。でも個人個人に、その人なりの正解は多分あるんですよね。だからこのプロジェクトでは僕だけでなく、関わってくださったボカロPの正解も一緒に導き出したいんです。もちろんそれは容易いことではなくて。できる限り100%の正解に近づけるためにもリファレンスはすごく必要なことですし、今の僕のテーマでもありますね。おっしゃるとおり、過去の自分から教わることもたくさんあるんです。
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