大人気コミックの舞台版2nd Seasonが10月6日より上演中
せわしない喜怒哀楽が前作以上に胸に迫る、舞台で味わう『フルーツバスケット』の真骨頂
2023.10.09 17:00
2023.10.09 17:00
舞台『フルーツバスケット 2nd season』が10月6日に東京・大手町三井ホールにて開幕、同日には記者会見が行われた。
唯一の家族である母親を亡くした本田 透(吉田綾乃クリスティー)。由緒正しい『草摩家』の敷地でテント暮らしをしていたことが縁で家主である草摩紫呉(安里勇哉)、同級生の草摩由希(北川尚弥)、草摩 夾(橋本祥平)と一緒に住むことに。しかしそのことで、何百年も前から草摩家に続く『呪い』についても知ることとなる。それは一族には「十二支(+1匹)の物の怪」に取り憑かれている者が必ず生まれ、異性に抱きつかれると憑かれている動物に変身してしまうというもの。そして物の怪憑きとして生まれてきた者たちは、その運命故に深く傷つき、孤独の中にいた。はからずとも草摩一族に関わることになってしまった透の存在により、由希・夾を含めた3人の関係、そして草摩一族の関係性も少しずつ変化を見せていく……というストーリー。
まず会場に入ると、前方に大きく張り出した長方形の舞台、そこを囲むように作られた客席という大胆なステージの作りに驚く。さながらファッションショーのランウェイのようで、由希役の北川も記者会見で「劇場を見たらわかると思うんですけど、前作とは全然違うステージの仕様になっている。目が足りないんじゃないかなと思えるほど」と述べたほど。実際にオープニングでは、登場人物たちがそこをショーの如く歩いて登場するという仕掛けも。このオープニングは物語の“お披露目”感があると同時に、誰と誰が一緒に歩いてくるか、どんな風に舞台に現れるのかで、彼ら1人1人のキャラクターがわかるようになっている。今作は全3部作の第2部にあたる作品でもあり、設定の説明を兼ねていると考えても非常にスマートな手法だ。
かつ、舞台上のセットは前作に輪をかけてシンプルなものとなった。ランウェイ上の舞台には、大きな積み木のような形の物体がいくつかあるだけ。これが登場人物たちの手によってときに草摩家の居間となり、透たちが通う学校となり、コンビニや屋外などさまざまなものに変化していくという、とても「演劇らしい」手法。
しかしこの演出とランウェイ型の舞台セットが、観客の注目を登場人物とストーリーのみに集中させる効果となっている。派手な演出が多い「2.5次元」ジャンルの作品、しかも脚本と演出を手掛けた毛利亘宏は日頃はケレン味あふれるエンターテインメント作品が多いことを考えると、異例とも言えるかもしれない。しかし、これもまた正解なのだ……なぜならこの作品は『フルーツバスケット』だから。
『フルーツバスケット』は、透という主人公を中心に草摩一族や周囲の人々を長期に渡って描き続けた、いわば壮大な群像劇。原作コミックスが発売されたのは1998年だが、コミックス発売数は累計で3000万部を超えるという大ヒットコンテンツだ。
なぜこんなにも長い間、この作品が愛されているのか? それは、そこに描かれているディテールは誰もが共感でき、心を揺さぶられるものだから。物の怪憑きが原因で誰からも愛されなかった、他人と距離を取ってしまう、意図せず他人を傷つけてしまった……登場人物が抱えている孤独は、実は誰もが思い当たったり、人によっては心の片隅に抱えている傷とも重なるもの。そんな彼らを透という存在が、ときに自分も傷つきながら体当たりで救っていく、その姿が観客の“傷=呪い”をも解き、癒やしてくれる……それが『フルーツバスケット』の魅力。
だからこそ、シンプルな舞台セットで「登場人物が繰り広げる物語」にフォーカスするこの手法は“正解”であるし、前作以上に胸に迫ってくる場面が多い。みんなで海に行くシーンなどコミカルな場面もありつつ、十二支一人ひとりのバックボーンや葛藤が次から次に描かれていく。透役の吉田は「草摩家を色々な角度からピックアップしていくので、喜怒哀楽がせわしなく動いていく時間。千秋楽まで誰ひとり欠けることなく、皆さんに素敵な時間を届けたい」と会見で語ったが、彼女が言う通り本当に常に感情が揺さぶり続けられる3時間弱となっている。
このシンプルな演出で長時間の上演が可能になっているのも、見事にキャラクターにハマっているキャスト陣がいてこそだろう。特に透という役は浮世離れしたほどの純粋さを持つキャラクターだけに、吉田綾乃クリスティーが演じることで説得力を持たせることができていることが強い。
キャラクターといえば、今作の新キャストによって十二支がすべて揃っただけでなく、彼らを統べる“神”である草摩慊人(彩凪 翔)が登場したのも大きなポイントだ。
原作でも強烈なインパクトを与え、物語のキーマンである慊人。宝塚で長らく男役スターとして活躍した彩凪 翔が演じることで、彼女のいい意味での作品内での“異物感”が、慊人という役に見事にハマっている。
会見でも彩凪は「慊人は十二支にとって絶対的な影響力がある人。ある種のトラウマや恐怖感を植え付けられるほどのオーラや言葉の説得力、存在感、無言の圧は意識して演じていきたい」と語っていたが、観客全員が納得したのではないだろうか? オープニングでも慊人1人だけが違う場所から登場する、そういった細かな演出も、原作やアニメを知っていると納得がいくものだ。
いろいろと語ったが、この舞台版『フルーツバスケット』、おそらく原作やアニメを知った上で観た人のほとんどが「作品への愛」を十二分に感じられる作品であることは間違いない。今作は全3部作の中でも、草摩家の“呪い”の謎の片鱗が見えてくる非常に重要なパートであり、『フルーツバスケット』の真骨頂である、人物たちの葛藤やそれが解かれてゆくカタルシスというものが、生身の人間が演じることでダイレクトに伝わってくるものとなっている。これぞ“舞台化”の醍醐味といえるだろう。ぜひ今作を生の空間で味わい、大団円となるFinal Season公演の実現を心待ちにしようではないか。