映画『炎上する君』で表現した“強要しない”メッセージ
「他者を肯定することは強くて難しい」うらじぬの×ファーストサマーウイカに問う現代の人間観
2023.08.12 17:00
2023.08.12 17:00
原動力は一貫して表現し続けたい意思(ウイカ)
──アドリブの会話もあったりしたんですか?
うらじぬの ウイカさんが浜中として動いたものに対して、「確かに浜中だったらこう動くな」って思ってちょっと返すみたいな動きのことはありましたけど、セリフは大体は台本通りで。
ウイカ そうですね。フィジカルや感覚、反応であったり、ダンスに至っては完全にこっち任せというか(笑)。100%アドリブっていう。「決まり位置はここで」とかもなく本当に丸投げ。体とか立ち方、走り方、踊り方っていうのは完全にキャラクターになった私たちに任せてもらいました。
──ふくだ監督も完成する画に対して器がすごく広かったんですね。
うらじぬの 高円寺という町と、梨田と浜中、そして他に出ている皆さまのことをすごく信じてくれていて、それで撮る画が全部ちゃんと仕上がると思って撮っていらっしゃったなと。
ウイカ すべてに絶対の信頼を持ってくれてたんで、「間違ってないんだ」と思ってやれました。そうだ! 撮影中、髪型も服装も全部梨田にそっくりな人が高円寺にいたんですよ。二人で「梨田だ……!」って、一緒に写真撮ってもらったりとかして(笑)。本物の梨田がいたんです(笑)。
うらじぬの 嬉しかったですよね。探りながら作ったけど、本当に存在するんだみたいな。
ウイカ フィクションを撮る上で「本物がいた」というのは世界を信じられる何よりの説得力があって。不思議とドキュメンタリーを撮ってもらっている気持ちになって、それが空気感やいろんな意味で画に出たのかもしれないです。
──高円寺は都内における特異点みたいな町というイメージもあって、本作では高円寺が第三のキャストと思えるほど有機的に描かれていたなと思うのですが、お二人とも元々高円寺に思い入れはありましたか?
うらじぬの 私はよく知っていて、本当に梨田に感覚が近いんですよね。懐の広い町だし、蟻地獄みたいな町なので……(笑)。ずっと居れちゃうし、何も否定してこない町っていう感覚があります。だから、西さんの原作も高円寺だったんですけど、本当に高円寺がぴったりな作品だなって演じながら思いました。
ウイカ 高円寺には同調圧力をあまり感じない、自由な街の印象があります。悩める若者や夢追人が集う自由な街だからそこ多様なメッセージを重ねられるのかなと思いました。この映画と同じく「ああしろ、こうしろ」と押し付けがましくないというか。これが丸の内や銀座だとまた見え方は自然と変わってしまうのかも。それだけ高円寺にはキャラクターがあるんですよね。
──おっしゃる通り、「ああしろ、こうしろ」とは誰も言っていなくて、「私はこう思う」っていうのを高らかに宣言し合っているような空気感も高円寺ならではという感じもしましたね。
ウイカ 宣言する人もいるし、しない人もいる。強要はしない。みんなの声が自由に飛び交うような広い受け皿というのが、人が集う理由なのかもしれないですね。
──うらじぬのさんは映像や舞台、一人芝居もやられていて、ウイカさんは音楽やラジオ、バラエティ、ドラマなどにも出演されていますが、お二人にとって現在のマルチタスクは望んで手にした環境なのか、それとも気づいたらこうなっていたのでしょうか?
うらじぬの 気づいたらそうなってたみたいな感じですね。私あれもこれもやりたいっていう人間ではないんですよ。すぐパンクしてしまうので……。舞台がすごい好きで、ずっと舞台をやってきて、これからもずっと舞台をやってくんですけど、それを目指して歩んで行ったらだんだんいろんな選択肢が増えてきました。手を差し伸べて「お仕事しましょう」って言ってくださる方がいて、気づいたらいろんなことさせてもらってるっていう感じですね。環境はとても刺激的で楽しいです。
ウイカ 私は逆に一つのことができなくて。バイトも掛け持ちしたいし、一個やるとすぐ隣の芝が青く見えて……。今もそうです。芝居、音楽、バラエティ、常にローテーションを組みたくなる。欲張りというか飽きっぽい(笑)常に新鮮でいたい気持ちが強いです。マルチタスク管理能力には繋がるけど、ひとつを極められる性格のほうがこの世界では優位だよなと頭を抱えたりします。でも根っこの部分は表現し続けたいという意思が原動力なので、ある種そこは一貫してるとも言えるかも。
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