本間昭光のMUSIC HOSPITAL 第12回 吉澤嘉代子
吉澤嘉代子が迎える10周年、詩で紡ぐ縁と物語
2023.07.31 17:30
2023.07.31 17:30
日本を代表する音楽プロデューサー・本間昭光が、現代のセルフプロデュースに長けたアーティストと楽曲制作論を中心に音楽談義を繰り広げる連載コラム「本間昭光のMUSIC HOSPITAL」。
今回のゲストは今年アーティスト人生10周年を迎える吉澤嘉代子。2017年にリリースした2ndシングル「残ってる」が『関ジャム』で年間ベスト10に入り話題になり、今に至るまで唯一無二の世界観で根強いファンを獲得している。本間とも過去に共演経験があるとのことで、当時の思い出から楽曲制作にあたり彼女が大切にしているテーマ、近況などたっぷりと語ってもらった。
作品の“滑稽さ”を大切にしたい(吉澤)
本間昭光(以下、本間) 吉澤さんと最初にお会いしたのは、2016年の恵比寿・ザ・ガーデンホールにお伺いしたときで、なんというライブをやっているんだこの人は!とそのとき思ったんですよね。ひとり芝居がすごく面白くて、でも音楽もちゃんと伝わるじゃないですか。最初からあのスタイルでやってたんですか?
吉澤嘉代子(以下、吉澤) 2014年デビューなんですけど、一番最初のワンマンショーから小芝居を入れてました。本間さんが観に来てくださって、どう思われたんだろう?って何年も不安だったんですよ!
本間 OLの役をされてましたよね?「カラオケでも歌ってみようかしら」って自然と歌が入ってきて、それが面白かったですよ。重心のバランスがすごく良くて、結果的に楽曲が心に残る感じになってました。終演後、楽屋にお邪魔してちょっとだけお話しできたんですよね。再会したのがテレビ収録で。「地獄タクシー」をやりましたね。
吉澤 たしか生放送でしたよね?
本間 生放送で「地獄タクシー」を弾かなきゃいけないって、みんなめっちゃ練習して。
吉澤 みなさん1日に何十曲も演奏されてましたもんね。
本間 タクシー運転手のセリフを誰が言うのか?となっていて。結局、当時のサックスの竹上(良成)がやって。彼は意外とそういうの好きだったみたいで(笑)。
吉澤 本当にいいお声ですごく合ってました。
本間 全体的に少しジャズっぽくて、ピアノ弾いててもすごく面白いです。なんてアカデミックなんだろうって。どういう意図でああいうテーマの歌詞を書かれたんですか?
吉澤 「地獄タクシー」は、仕事で福岡に行ったとき、帰りに乗ったタクシー中でウトウトしてたんですね。すると運転手さんが急に「あなたと一番奥まで行ってよかですか?」と聞いてきて。ウトウトしながら「え? 一番奥って何? 一番奥って地獄なのかな?」って考えてたんですよ。タクシーから降りてマネージャーさんに「さっきの運転手さんすごいこと言ってましたよね?」って聞いたら、「ANAだと一番奥まで行くけどよかですか?」だったみたいで(笑)。“あなた”とじゃなくて“ANA”だったんですよ。私には「あなたと」に聞こえて(笑)。でも、そんなふうにまっすぐ言ってくれるんだったら、地獄に行ってもいいかもって思ったんです。そこから「地獄タクシー」が浮かんできたんですよ。
本間 JALだったら「地獄タクシー」できてなかったですね(笑)。
吉澤 ANAでよかったです(笑)。
本間 デビューから今まで、作品を作るときに自分の中でテーマにされていることってあるんですか?
吉澤 滑稽さを大切にしたいなと思ってます。それこそ日常の聞き間違えとか。
本間 日常のちょっとした聞き間違えとかが全部、自分の中で引っかかっていくわけですよね。文筆家とかアーティストで作詞に関するフィルターがある方ってたまにいらっしゃいますよね。吉澤さんは、そういう方なんでしょうね。
吉澤 想像力がすごくて、バーって勝手に広がっていっちゃいます。
本間 アーティストには大切なことですよ。やっぱり想像力が強い方は歌詞に憑依するというか、どんどん自分の中で物語ができあがっていくので。でも、そこにメロディをつけるってまた違う才能なので両方できるのはすごいし、おもしろいですよね。
吉澤 お仕事になってよかったです、本当に。歌手じゃなかったらただのフワフワした人でした(笑)
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