2023.07.15 19:00
2023.07.15 19:00
大人から子供まで「笑える」場面の数々、キャスト陣の圧倒的な歌唱力と表現力、現代に生きる人達に刺さるテーマ性……昨年、トライアウト公演で好評を博した『シュレック・ザ・ミュージカル』がフルバージョンとなり、現在好評公演中だ。
昨年に引き続きシュレックを演じるのは、ミュージカル作品から『刀剣乱舞』シリーズまで幅広く活躍を続けるspi。日本人の母とアメリカ人の父を持つダブルルーツであり、このシュレックという役にはシンパシーを感じていたという彼だが、今後は活動の場を海外に広げることも考えているとか。念願のフルバージョン公演、そして今後の活動について彼が今、考えていることとは?
一歩踏み出すドキドキ感を感じて欲しい
──昨年のトライアウト公演を経て、今年は念願のフルバージョン公演。このフルバージョン公演の実現というのは、トライアウト公演のときもみなさん意識されていたのでしょうか?
そうですね、トライアウト公演はその名の通り「トライアウト」ですから、この公演がうまくいかないとフルバージョンの公演はできない。といっても、俳優は舞台上で頑張るしかないわけですが……だからフルバージョンの公演が決定したときは、本当に良かった、これでできる、という思いはありましたね。
──昨年の公演は日本初演だったわけですが、実際に上演されての感想はいかがでしたか?
お客さんが意外と笑ってたな、と。ここで笑いが来るだろうな、という場所は意識していましたけど、日本のお客様は劇場で大爆笑することってあまりないだろうと思っていたんですよ。どちらかというと「気を遣って笑う」くらいのことも多い。でも、昨年の公演では「笑っていいんだ」っていう空気感があったんでしょうね。子供たちの笑い声がたくさん起きていて、それは手応えでしたね。ちゃんとコメディとして評価されているな、と感じることができました。
──子供たちが笑える場所はもちろんですが、大人も笑えるようなギャグもありますし、かつアメリカンジョーク的なものが多いですよね。それでも客席が湧いていたのが印象的でした。
翻訳と訳詞を手掛けた音楽監督の小島良太さんはじめ、スタッフたちが苦心したローカライズの方向性が合っていたんだろうなと思うんです。元の脚本にはアメリカだったらわかるけど日本だとわからないというものが結構あって、そこをどう訳していくか……さじ加減は難しかったと思うんですけど、その作業が上手くいったんじゃないかな、と。
──spiさんをはじめ、キャストの皆さんが本当に実力派揃いで圧倒されました。
これはもう、制作陣の心意気ですよね。「宣伝はこちらで頑張りますから、俳優さんはとにかく“上手い”人を集めたい」という。しかもただ歌が上手な人を集めているだけではなく、「奉仕の心」がある俳優ばかりが選ばれたような気がしているんです。だから一緒に歌っていてもとても楽しいし、耳触りがいい。そういうメンバーが揃っているので、昨年の公演もすごく楽しかったんですよ。
──「奉仕の心」というのは?
客席への奉仕の心、というのかな。例えば、「客席は私の声を聴いてください、周りの音は聴こえませんよ」みたいな歌い方をする人はこの作品にはいないんです。みんな歌の実力はしっかりあるのに、「アンサンブル」ができる。それはおそらく、みんなミュージカル作品でコーラスやアンサンブルの経験があるから。主役やメインキャストもできればアンサンブルもできる、そういう人たちが集まっているのはすごく強いなと思いますよ。今は何を聴かせるか、何を見せるかという判断のバランス感覚がとてもいい。もちろん、「私だけを見ろ」とスポットライトを当てる瞬間というのは当然あるんですけど、「今はみんなで合わせて見せていく瞬間だよ」というのも同じようにできる。一緒に舞台に立っていて、本当にやりやすい仲間たちです。
──フルオーディションで選ばれたカンパニーならでは、ですよね。ちなみに今回はフルバージョンですから、昨年よりもナンバーが増えるわけですよね。
前回よりプラス25分。ナンバーや場面が増えた分、登場キャラクターの説明や掘り下げが増えているので、昨年観た方も楽しめると思います。ファークアード卿にはそういう背景があったんだ? とかもわかりますし、ドンキーやシュレックのソロも増えてますから。あと、いわゆる「カーテンコール曲」があるのでそこでのお楽しみがプラスされます。お客さんと一緒に踊ったりできたら最高だなと思ってるんですけどね。
──海外の劇場ではよくある光景ですが、日本ではなかなか見られないですよね。そこはぜひ、この作品&日本の劇場もそうなって欲しいなと?
いやまあ、無理に変わらなくてはいいと思うんですよ(笑)。前に何かで知ったんですけど、日本人って他人の目を気にするDNAというのが他の国より3倍ぐらい多いらしくて、そもそもがそういう民族なんだなと。だから無理しなくてもいいとは思いつつ、せっかくだったら「ドキドキしながら一歩踏み出す」体験のきっかけになるといいな、とは思いますよね。「自分も立って踊りたいな」の一歩でもいいし、その逆でもいい。周りはみんな立って踊ってるけど、1人だけ座ったままでいるのも勇気。何でもいいんです、ラインを踏み超えるときのドキドキ感を、この公演で感じてみて欲しいなとは思いますよね。
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