本間昭光のMUSIC HOSPITAL 第11回 wacci橋口洋平
wacci橋口洋平と考える音楽家の人生、さらに世界を広げるために40代からすべきこと
2023.07.06 20:00
2023.07.06 20:00
ポルノグラフィティの作曲&トータルプロデュースやいきものがかりのサウンドプロデュースなど、数々のヒット曲を生み出してきた本間昭光の対談連載「本間昭光のMUSIC HOSPITAL」。現代の音楽シーンで活躍するゲストを招き、セルフプロデュース論を軸にさまざまな音楽談義を繰り広げる。
今回招いたのは昨年メジャーデビュー10周年を迎えた5人組バンド・wacciのボーカル&ギターであり、ほぼ全ての楽曲の作詞作曲を手がける橋口洋平。wacciは「別の人の彼女になったよ」や「恋だろ」がSNSを中心に火が付き大ヒット。2021年にはバンド初の有観客日本武道館公演も行った。両者の縁はwacciを代表する一曲「大丈夫」の編曲を本間が務めた頃から続いており、今年橋口が40歳を迎えるにあたり話の中心は自然と音楽家のキャリアデザインへと進んでいった。
30代は本当に早かった(橋口)
本間昭光(以下、本間) 「大丈夫」は何年前?
橋口洋平(以下、橋口) 8年前ですね。最近のライブで「大丈夫」やった後のMCで、8年前の曲だということにみんなでおののいたんですけど(笑)。
本間 早いですね。あの時点でメジャーデビューしてまだ2、3年目?
橋口 2012年デビューなんで、3年目のときですね。
本間 いまだにちゃんと演奏してくださってるわけですね。
橋口 すごい大事な歌です。コロナ禍でもあの曲に励まされるっていう人もたくさんいて。あと若い人だと、部活や受験でつらいときとか大事なタイミングで「大丈夫」を聴いてて、それでライブに来てくれる人が結構います。あの曲のとき12歳だった子が、今では20歳です(笑)。
本間 僕もしょっちゅうですよ(笑)。最初にアレンジやった曲を聴いてくれてた人がいたら、小学校で聴いてたとしても40歳過ぎてますから……。
橋口 小林柊矢くんもこの連載に来てましたよね。「笑おう」もめっちゃ素敵なアレンジで、感動して「やっぱ本間さんだ」ってなりました。柊矢くんに槇原敬之さんの「もう恋なんてしない」って本間さんの曲だよって言ったら超びっくりしてました(笑)。
本間 知らなかったんだ(笑)。小林くんは野球やってたから体幹もしっかりしてるし、すごく強い歌声を持ってますよね。もうwacciも11年目ですか。
橋口 あっという間ですね。特に30歳超えたときに、本間さんが「30から40までめちゃくちゃ早いよ」って言ってたのがずっと記憶に残ってて。僕今年40歳なんですけど本当に早かったです。40歳以降ってどうなんですか?
本間 もっと早くなる(笑)。充実してるってことなのかな? 大人になってからの1週間の早さって、特に20代と30代とは全然違います。しかもツアー、レコーディング、制作をやってると時間があっという間に流れてるからね。40代になったらさらに自分のポジションがついてきて、作詞作曲とかの経験も上乗せされるし。45歳になったときに自分のノウハウを若手に投げていく作業をすると、それが50代以降に戻ってくるっていう話を昔聞いたんです。だから40代後半からはいろんな人に経験談を伝えていて。
橋口 ノウハウの積立NISAみたいなのがあるんですね(笑)。
本間 時間の流れも早くなるけど、いろんな人とさらに深く付き合えるようになるのが50代。広いし深い。
橋口 本間さんの環境もそのタイミングで変わりましたしね。
本間 それまで委ね過ぎちゃってたところもあるかもしれない。お金のことや権利のことを他人任せにしすぎてたところがあって、50代の後半から自分でやってみようって変わったんです。以前は変な美学があって、そういうのは任せておいたほうがいいとか。
橋口 昔は役割がしっかりあって、その役割があるから生活できてる人もいたはずで。今は結構みんな自分でやってますよね。
本間 本当は両方わかってたほうがいいんだろうなと思いつつも、そういうリアルなところから外れたところにいる人間だからこそ生まれてくるものっていうのもあるだろうなと思ってました。今考えると20代からそういうことをちゃんと勉強しておいた方がよかったなって。
橋口 所属事務所のキューブで本間さんといきものがかりをそばで見てきた身としては、いきものがかりの皆さんは、本間さんのおかげで早いうちからたくさんの学びがあったんじゃないかと思っていました。
本間 どっちかっていうと、3人のバランスの話とかをしてました。自分たちのセルフマネジメントのこと、メンバー間のバランスについてのこととか。本当はスタジオも自分で作るのはよくないって思ってたんです。エンジニアはエンジニアの領域があるから、自分は譜面書いていいサウンドを作って、それをエンジニアに委ねるのがいいと思ってたんだけど、今はそうもいかなくなってきてて。だったら、場所だけ作って、みんなが遊びに来て、気持ちよく歌ってくれるような環境を作った方がいいなって思ったんです。
グラミー賞を見に行ったときにエスペランサ・スポルディングっていうベーシストのプロデューサーに「どんなスタジオ使ってるの?」って聞いてみたら、「これだよ」ってカバンの中からラップトップ出してきて。「部屋ないの?」って聞いたら「リビングで歌ってる」って。だから工夫とか発想で乗り越えられることっていうのもたくさんあるんだなと。一概に今までの「スタジオはこうじゃなきゃダメだ」じゃなくてもいいんじゃないかなって思いました。今、新しい場所に作り直してるから、完成したら遊びに来てください。
橋口 はい、行きたいです!
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