ヒップホップで社会を生き抜く! 第18回
インディーズアーティスト必見!自主レーベルで天下を取ったラッパー、テック・ナインから学ぶビジネス術
2023.05.03 14:00
テック・ナイン「3D」
2023.05.03 14:00
直接できる仕事を作る環境構築
テック・ナインが〈Strange Music〉をトラヴィス・オー・グインと立ち上げる前、テック・ナインは様々な仲介人を通してワーナー・ブラザースと契約していたとトラヴィスは明かしている。テック・ナインの「マネージャーのふり」をしている人が6人もいたらしく、誰も自分がするべき仕事を理解していなかったようだ。まさに「船頭多くして船山に登る」という状況だったようで、トラヴィスは「厨房に料理人が多くいても、美味しい料理はできない」と語っている。〈Strange Music〉を立ち上げ、その仲介人との仕事をやめたことも仕事がスムーズにいく要因だったと言えるだろう。特に、その6人のなかにはテック・ナインにもっとメインストリームなスタイルのヒップホップをやらせようとしていた人もいたようで、特徴的なスタイルを貫いている彼を売ることよりも、とにかく目先のヒットを追いかけさせようとする人も多かったようだ。
この「仲介人を排除する」というのはトラヴィス流のビジネスでもあった。彼はグッズを生産する際にも、業者に頼むというプロセスをカットするために、自分たちでシャツをプリントすることができる体制を整えた。また、レコーディング代を毎回負担するのではなく、自身でスタジオを作り、そこで所属アーティストたちのレコーディングをできる環境を作ったのだ。今ではそのグッズ工場とスタジオは、〈Strange Music〉だけではなく、他のクライアントも抱えているようだ。
非常に規模が大きい話に聞こえるが、自分の活動において「自分ができるところはどこか?」「他人に提供できるスキルは何か?」という質問を自分にしてみるとアーティストとして以外にも、自分のビジネスを拡大する案が浮かんでくるだろう。〈Strange Music〉も徐々に規模を大きくしていき、グッズ工場、レコーディングスタジオ、ビデオ編集ビジネス、洗車ビジネスなども展開している。
ビジネスとして多く学べることがある〈Strange Music〉の事例だが、テック・ナインとトラヴィス・オグインが最も重要視していることは「音楽のクオリティ」だと語る。ビジネスサイドを担当するトラヴィスも「音楽がすべての土台で、自分が正しいと思う音楽を作れ」と、信じる音楽を作ることを激励している。トラヴィス・オグインがテック・ナインの音楽を信じ、アーティスト自身が誇れる作品を作ることができる環境を整えたことが〈Strange Music〉の成功における最大の要因とも言えるかもしれない。