伝説的ロックスターに魅せられた2人が語り合う創作の源泉
ブレット・モーゲン×小林祐介『ムーンエイジ・デイドリーム』で新たに邂逅するデヴィッド・ボウイ
2023.03.24 17:30
2023.03.24 17:30
約半世紀にわたりイギリスの音楽シーンを牽引し、2016年1月にこの世を去ってからも一切色褪せることなく音楽ファンの心を踊らせ続けている伝説のロックスター、デヴィッド・ボウイのドキュメンタリー映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』が3月24日に全国公開された。
本作はただのドキュメンタリー作品にあらず、デヴィッド・ボウイという生き方を追体験することができる初めての映画だ。随所で映し出される名曲たちのライブシーン。それが映画館という環境で格別の音楽体験をもたらしてくれるとあって、公開後は多くの日本のミュージシャンも映画館に足を運ぶことだろう。そこでボウイからの影響を公言し、メインバンドのTHE NOVEMBERS、近年ではTHE SPELLBOUNDとしてもライブシーンを唸らし続ける小林祐介に本作の監督であるブレット・モーゲン氏との対談を打診したところ、二つ返事で快諾してくれた。
当日小林には監督の来日に合わせいち早く映画を観てもらい、観たその足でインタビューに臨んでもらった。また、対談の訊き手役として同じくボウイをフェイバリット・アーティストのひとつに挙げる庄村聡泰(ex-[Alexandros])が立ち会い、限られた時間で存分に語り合ってもらった。
ボウイから学んだ芸術家の心得
──インタビューの前に小林さんと映画を観てきました。まだ興奮冷めやらぬ状態なのですが、小林さんから映画を観た感想、監督に聞いてみたいことなどがあれば教えていただけますか?
小林 僕は今37歳なのですが、父親の影響で子供の頃にデヴィッド・ボウイを聴いたのがきっかけで音楽に興味を持ってから、YouTubeで見たりいろんなCDを集めたりして、追いかけるようにデヴィッド・ボウイを好きになっていたんです。そして、僕が日本で影響を受けたアーティストは、みんなデヴィッド・ボウイのファンでした。自分が影響を受けた日本の音楽家たちを経由して、僕の中にもデヴィッド・ボウイが違う影響としても入ってきているんです。今回の映画は、もちろん僕が全然見たことのない映像ばかりで、いろんな人が彼に影響を受けて世界を変えていったことを目の当たりにすることが出来て心が震えました。音楽と映像作家で仕事は別だと思うのですが、監督もデヴィッド・ボウイと出会ったことで、ものづくりにおいて一番影響を受けたことや取り入れた生き方の哲学みたいなものがあったらお聞きしたいです。
モーゲン監督 まず芸術家としての一番大きな学びは、もしアーティストとして居心地がいい場所に自分がいると感じたならば、そこは創作するにおいて、いるべき場所じゃないことだということ。我々は常に自分たちが挑戦を突きつけられるような状況に身を置かなきゃいけないと思うし、自分自身を“リピート”してしまうことというのは、せっかくの機会を無駄にしていることなんだと思うようになりました。
あと、もう一つ学んだことが、何事も完全な間違いはなく、すべては幸福へと繋がるアクシデントなんだということです。僕はフィルムメーカーとして、今まで完璧なものを作るためにずっと削り続けるような形で作ってきました。でもデヴィッド・ボウイから学んだことは、自然発生的なことが起きるような環境を用意すべきだということ。その方がその瞬間に起きたことを捉えることができるということも学びました。
小林 ありがとうございます。そんなデヴィッド・ボウイに影響を与えた存在として、そういった偶然性を肯定するようなジョン・ケージやエリック・サティのような表現者が居たんだなと思います。だから話を聞けば聞くほど、今この時代この瞬間にデヴィッド・ボウイが生きていて、世の中……例えばネット社会に対していたらどんな言葉や思いを発信していたのか気になります。
モーゲン監督 彼がどんなことを思うかとかそのような憶測を、僕はなるべくしたくないと思っているのだけど、この映画は私がデヴィッド・ボウイというアーティストに邂逅した映画でもあります。これは、U2のボノに言われたことなのですが……この作品、実はU2のボノとジ・エッジ、パール・ジャムのエディ・ヴェダー、あとショーン・ペンに初めて見せたんです。ちょっと怖かったけど(笑)、今までで最高のスクリーニング(試写会)でした。始まってすぐ「ハロー・スペースボーイ」がかかった時に、ボノとエディがヘッドバンキングするように頭を揺らして。ショーン・ペンの方を向いたら彼も一緒に始めて(笑)。「すべての若き野郎ども」がかかった頃には、全員拳あげていました。他の試写でも、観客がそういうリアクションするのをいつも待っているんですけど、なかなか起きない(笑)。
それはともかく、試写が終わった後にボノに「アーティストについての映画を作ったんじゃない、アーティストそのものをあなたは作った」「デヴィッド・ボウイと私(モーゲン監督)という2人のアーティストが邂逅した映画だ」と言われたのが印象的でした。
先ほどの学びの話にも繋がるんですが、僕らアーティストの仕事の一部は自分たちの観客を増やしていくこと、知ってもらうこと。そして、ある種自分たちを“ブランド”として知ってもらうことだけど、デヴィッド・ボウイの凄いところは、クリエイティブな衝動があったときに、今まで築き上げてきたものを捨ててまでそれを追及したところだと思います。少なくとも僕と同時代を生きている人間で、そういうことを実践している人はいないと思うので、もし彼がまさに今生きていたら、その大胆さでどんなことをしていただろう?とは思います。
小林 なるほど。本当にそうですね。
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