2023.02.15 18:30
2人組バンド・なきごとがファーストフルアルバム『NAKIGOTO,』をリリースした。全22曲からなる本作は、2022年にリリースされた楽曲を含む新曲を収録した「A面」と、これまでリリースしてきた楽曲にライブで披露してきた未発表曲を集めた「B面」の2枚組。結成から4年となるなきごとのこれまでと今をすべて注ぎ込んだ、現時点での集大成である。
デビューした当時のなきごとの楽曲には、「夜」や「ひとり」というイメージが強くあった。ファーストミニアルバムのタイトルからして『夜のつくり方』である。水上えみり(Vo・G)の書く歌詞には孤独の影が色濃く映り、そのとても内面的でリアルな心情が、岡田安未(G・Cho)のギターやサポートメンバーの熱量溢れる演奏によって濃縮されて放たれる。ロックバンドで鳴らされることによって「ひとり」の思いが解き放たれ、多くの人に突き刺さる。そんなスリルがなきごとの音楽のおもしろさでありかっこよさだった。
その個性は今も根っこのように彼女たちを支えているが、この4年間、バンドに向き合い、オーディエンスに向き合い、コロナ禍という世の中の大変化に向き合いながら、彼女たちは自然に変化していったのだろう。作品をリリースするごとになきごとの楽曲はどんどん開け、広がっていった。その成果が、たとえばNHK「みんなのうた」に起用された「ぷかぷか」のような楽曲だろう。彼女たちは彼女たちらしさを抱きしめたまま、より大きな世界に向けて音を鳴らすようになった。
そのすべてがこの『NAKIGOTO,』には詰まっている。このアルバムは彼女たちの新たな自己紹介。改めて、なきごとというバンドに出会ってほしい。
──結成して4年になりますが、振り返っていかがですか?
水上 なきごとが始まって最初の1年はもう結構めまぐるしく進んでいる印象があったんですけど、そこからコロナ禍が来て今までのガーッて進んでいたものが一旦ちょっと止まった感じがあって。そこで「自分たちってどういうものだったのかな」っていうのを見つめ直したんです。それで今ちょっとずつツアーとかも回れるようになって、ここからだぞっていう。今はスタートの気分ですね。気を引き締めてやっていこうっていうモードになっています。
岡田 私もまったく一緒で、コロナを経てリスタートして、初心に帰ってしっかり歩んでいこうっていうタイミングですね、今は。
──バンドとして鳴らしたい音楽とか届けたいものだは変わってきましたか?
水上 主軸みたいなところはそんなに変わっていないと思います。でも密度が濃くなったかなと思います。それこそライブができなくなって、実際に対面できない中で曲の中で何を伝えるか、たとえばサブスクでしか聴かない人たちにどういうふうに届けるのか、そういうところまで考えられるようになったのは結構このタイミングだったんじゃないかなと思います。
──今回のアルバム、ディスク2「B面」にはこれまでの楽曲も収録されていますけど、そういうのを聴いていると、音の作りも歌詞の内容も、簡単にいうと解像度が増した感じがするんです。伝えるべきことや伝えたい相手というものがよりはっきり見えてきたのかなとも感じたんですが。
水上 曲を書く部分でいうと、結構それはあるかな。この間振り返って自分たちの曲を並べてみたときに、「B面」に入っている曲たちの歌詞の方向性って結構自分自身に矢印が向かってる印象があったんです。いい意味で個人的っていうか、そういう感じの曲の作り方をしてたなって思うんですけど、「A面」の方の曲たちは、対個人だったとしても矢印の先が自分じゃなくて外に向かってる印象があって。そういう変化はありますね。
──岡田さんはどうですか?
岡田 あんまり心は変わってないんですけど、プレーの面では結構変わったと思います。「どう見えてるのか」って客観的に自分を見て、考えてプレーをするようになりました。お客さんからどう見えたらかっこいいのかなとか、あとは先輩のプレーを見てかっこいいなと思ったことは取り入れるようにしたりするようになりました。
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