2022.11.23 17:00
2022.11.23 17:00
普遍的なだけではない何かを自分に見つけなきゃいけない
──今作『ZERO』は「常に自分は出発点に立っているという意思を表明する楽曲が揃った」とのことですが、ここに至るまでにどんな背景がありましたか?
『BREATH』がまずテーマを決めて制作したのとは逆に、『ZERO』はタイアップのお話をいろいろと頂いていたので、まず曲作りをしないといけない状況で。そのなかでファンタジックな『STORY TELLER』とリアルな『BREATH』を経たからこそできる原点回帰が、今の僕に必要かもしれないと思ったんです。だから『EMBLEM』(※2018年7月リリース/Sano ibuki初の全国流通盤)と同じような作り方をしているんですよね。アルバムのテーマから生まれた曲ではなく、1曲ごとに向き合ったうえで作った曲の集合体です。
──『STORY TELLER』のように物語を重視した曲もあれば、『BREATH』のようにご自身の意思が濃く反映された曲もあって、それを『EMBLEM』の時のようにアルバムコンセプトなしで曲作りをなさっているということですね。
そうですね。『BREATH』が完成した時にゼロからイチを作れたような感覚があって、この先は2、3、100を作っていくんだろうなと思っていたけど、リリースした後の景色を見たり、自分の心境と向き合った時に「音楽を作っていくならば、いつもゼロから新鮮な気持ちでやり続けないといけないんだな」と思ったんです。だからこの『ZERO』は「僕はこれからもゼロからイチを作っていくんだ」という覚悟でもあって。「ポップ」という概念は常にアップデートし続けるし、僕なりのポップを実現させるためにも、普遍的なだけではない何かを自分に見つけなきゃいけないなと思ったんです。
──Sanoさんはドラマ、CM、アニメなど様々なタイアップ曲を書き下ろしなさっていますが、作品のテーマソングはどうあるべきだと考えていますか?
寄り添いすぎても、寄り添わなすぎてもだめ、と思っています。だから書き下ろしをする時は、作品の価値観とSano ibukiの価値観の接点を探すところから始めます。たとえばタイアップ先の風景をそのまま曲にすることは誰にでもできるけど、そこに自分が実際に見たことがある景色、知っている匂いや感触、聴いたことのある音の要素をプラスすると、楽曲の立体感が一気に増してくる。だからタイアップ作品のことを書きながら、超個人的なことを書いていますね。僕はもともと自分で小説を書いたりプロットを立てたうえで曲作りをしていたので、やっていることは正直あまり変わらないんです。
──Sanoさんが書いているか、Sanoさん以外の人が書いているかの違いであると。
だからタイアップ曲の書き下ろしをしていると、登場人物が自分では思いつかないような動き方をするのが面白くて。それによって自分では思いつかないようなワードや景色を引き出してもらえます。僕はもともと曲作りをする時に音楽を参考にするのではなく、映画や小説、漫画、アニメといった音楽以外のところからインスピレーションを得るので、いろんな作品の書き下ろしをさせていただけるのは幸せなんですよね。
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