本間昭光のMUSIC HOSPITAL 第6回 熊木幸丸(後編)
Lucky Kilimanjaroが提唱する“踊る楽しさ”と“楽しく踊れる”ライブ体験
2022.11.30 12:00
本間昭光×熊木幸丸(Lucky Kilimanjaro)
2022.11.30 12:00
ズレっていうのは気持ちよさ(本間)
本間 全部並行してるのがすごいね。
熊木 完全に並行してますね。コードとメロディがあってそこに肉付けしていくスタイルじゃなくて、なんなら最初にリズムですね。とりあえずAbleton LiveのPushっていうリズムマシンで、パターン組んでなんとなくギターとか鍵盤とか弾いたりしながら作ります。
本間 リズムの気持ちいいところから構築していくっていう。
熊木 そうですね。最終的に「こういうアイディアでいこう」となったらまず作るのはリズムですね。リズム組み終わったらあとはもう自由なので、どれだけサウンドで遊ばすかというところでやってます。
本間 自分の好きなシャッフルのパーセントとかってあるの?
熊木 パーセントで表すとよく分からないですけど、僕はLogic Proの16分シャッフルが好きで、そのなかでもEの70というのが特に。D〜Eあたりで60〜70のやつを探すのがすごい好きです。Ableton LiveもグルーヴにLogic Proのシャッフルが入っているので、Ableton Liveのときもそれを使います。
本間 僕らのときはMPC60の48%を海外では使ってるって聞いてこぞってみんなそれを使ったりして。でも40年前の機材って今ほど性能がすごくないから、全然ムラのあるシャッフルだった。
熊木 MPCはあの揺れが時代の音だったという話ありますよね。ROLANDの最新のTR-8Sとかも、あえてブレさせてるって聞きました。波形でやると、ハイハットもちょっと長さとかアタックの出かたが違うって。サンプラーとしてじゃなくてドラムマシンとして作っているらしくて。僕も自分の楽曲作るとき、ハイハットとかキックもまず自分でパッドを叩くようにしているんですけど、叩いたうえで、揃っちゃっているところをちょっとずらすということをよくやっています。そういうちょっとした変化って気づくのかなって思ったりするんですけど、力入れないで聴いてる時はそういう気持ちよさが発生している気がします。
本間 ズレっていうのは気持ちよさだからね。グルーヴってレコード盤の溝のことを言うじゃん。だから、そこから生じるズレとか歪みというものがグルーヴを生み出してるんじゃないかなと思ってます。自分はDTMはDigital Performerを使ってるんですけど、そのなかにきちんと弾いちゃったものをわざとずらす「ヒューマナイズ」機能があって、そのネーミングがされていることが全てなんじゃないかなと思って。ズレが気持ちいいっていうのは絶対にあると思う。
熊木 マイクロリズムというか、楽譜で表せないリズムの範囲はもっと面白くなると僕は思っているので、自分の声の出しかたとか歌に関しても、楽譜にすると難しいけど自分ではそういうふうに感じてない、というか。それこそアフロビートの打楽器を叩くように歌うことを大事にしていて、「1小節のここの整合がなんとなく取れていれば、あとは横のラインが気持ちよければOK」という感じで歌うようにしています。
本間 最近そこがいちばん大事なんだなと思ってて、メロディのカーブみたいなのが、心地よくひと塊でできていれば、もうグリッドとか関係ないんじゃないかなって思う。
熊木 僕も縦のラインを気にするのをほぼやめちゃいました。ちょっと整合性持たせたとこもあったほうがいいけど、横のラインが合っていれば気持ちよくなるなと思ったので、少なくとも自分の楽曲は。
本間 90年代初めの頃は、そういう作りかたをしてたもんね。90年代後半から2000年代にかけて、どちらかっていうとグリッドの文化になったところがあるから、そういうふうにやらざるを得なかった。でも、集合体で作ってるフレーズのほうが、今聴くと面白い。きっちりしてるやつより。まあ、回って回ってそういうことなのかな。またきっちりしたものがよくなるかもしれないし。
熊木 そうですね。このグリッドとアングリッドなところの融合みたいなところはもっとクロスオーバーしていくんじゃないかなと思いますし、逆に僕は最近グリッド性みたいなものをもっと面白くできるのかもなと思いながら制作しています。
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