2022.11.10 19:00
1人1人がドラマの主人公ってことに気づいてもらえたら
──だから竹内さんの音楽の中でもすごく異質なものだと思うんですよね。トラックだけ取り出したら本当にマニアックなジャジーヒップホップだし。でもそれだけで終わっていない。それはどうしてだと思います?
なんだろう。自分自分の声がわりと特徴的であるっていうのはひとつあるかな。だし、リズム感はおふたりに合わせているんですけど、歌い方とかはやっぱりこの歌詞に合うようにっていうのはすごく意識したので。すべて持っていかれるのではなくて、ちゃんと化学反応が起きるように、自分らしさっていう軸はぶれないように歌ってはいました。
──そう、歌がめちゃくちゃ素晴らしいですよね。表情が豊かだし、すごく繊細だし。
結構話すように歌ったんです。マイクにもめちゃくちゃ近付いて歌ったし。
──歌詞の風景は真夜中じゃないですか。その真夜中な感じと、歌の表情と、あのトラックがまさに化学反応を起こしている感じがします。
真夜中から朝方にかけて、窓の外の景色が変わっていくさまみたいなのを表現できたらいいなと思っていたので。朝に聴くトランペットってめっちゃいいじゃないですか。それもあって景色がより明確になったなっていうのはありますね。なんかグラデーションみたいになったなって。
──最初は爽やかなイメージだったっておっしゃっていましたけど、いざ完成してみるとそれとは違うムードが生まれたんじゃないかなと思うんです。最終的にはどんな曲になったと思います?
この曲は色で言うと夜から朝にかけて。ちょうど今私が着ているワンピースみたいな色、まさにこれですね(笑)。たった2時間ぐらいの話なんですけど、その中でゆっくりと移り変わって溶けていくようなものを表現できたらいいなと思って。ただ主人公のふたりがお部屋の中で一緒に並んでスイカを食べたりコーヒー飲んだり、別になんてことない風景なんですけども、でも切り取ってみれば「ふたりで並んで食べるスイカってすごくおいしいよね」とか「朝方に飲むコーヒーっていいよね」とか、なんてことないことに対して「それもいいよね」って気付けるものになったらいいなと思っています。
──でも、朝4時にスイカを食べるっていうのはただごとじゃない感じもしますよね(笑)。
ただごとではないですね(笑)。ノリと勢いみたいな、そのラフな感じもいいなと思って。曲にそのスイカが出てくるので、ジャケットもスイカにして。10月に出る曲でスイカのジャケだったらおもしろいんじゃない?ってこれにしたんですけど、これを撮ったのが9月末だったので、めちゃくちゃスイカを探し回りました。
──はははは! だから、朝4時にスイカを食べるってことは……って、いろいろ想像しちゃうんですよ。すると、本人たちにとっては本当に些細なことだけど、それが濃密なドラマになる。で、そうやってドラマにするにはこのサウンド感っていうのはやっぱり必要だったんだって思いますね。
私たちが普段観ているドラマとか映画って、その世界の話だから私たちには関係ない、私たちには起こり得ないことだって思いがちだけど、でも私、人間観察するのが好きなんですけど、たとえばカフェでひとりでいるときに向かいの席にいる人を見て、全然知らない人だけど、この人にもたくさんドラマがあるんだろうなとか思うとすごくおもしろくて。そうやって1人1人にフォーカスしていくことできっといろんなドラマがあるんです。劇的なことはなくとも、1人1人ドラマの主人公なんだよっていうことに気づいてもらえたら嬉しい。この曲に限らず今まで自分が一貫して歌ってきたことのテーマとして自己肯定感みたいなものがあるんですけど、自分は蚊帳の外の人間じゃなくて、ちゃんと自分の人生の主人公なんだよ、みたいな。それは毎度エッセンスとして入れていますね。
──「あいたいわ」もこの「made my day feat. Takuya Kuroda / Marcus D」もそのテーマが極まっている感じがするんです。竹内さんのなかでも「私が歌うのはこれなんだな」っていう確信が深まっているのかなっていう感じがします。
そうですね、確かにピタッとはまったというか、あまり悩まずに、すごくスムーズに書けたので。そういう部分でも曲を作るうえでまた一歩上に行けたかなっていうのは思っていますし、これからまたいろいろな経験をしていくなかで、きっともっと描けることが増えていくんだろうなとも思います。経験をすればするほど選べる言葉の数も増える。ただ「好き」っていうことを言うのにも、それを表す言葉ってたくさんあるので。その枝をたくさん増やしていけたらいいなと思っています。