本間昭光のMUSIC HOSPITAL 第4回 eill
eillと語るアレンジ術、僅かなこだわりが生む芸術性
2022.09.23 17:00
2022.09.23 17:00
音楽を作るときは感覚的でいい(本間)
本間 今回の新曲「プレロマンス」と「フィナーレ。」あるじゃないですか。これってサウンドを構成するときは共同作曲した宮田’レフティ’リョウさんと結構細かく打ち合わせしてるの?
eill そうですね。アレンジは一緒にやるんですけど私がめちゃくちゃうるさくて。「フィナーレ。」の方はかなり。私はコードとか音楽理論に詳しい訳じゃないので、「この音じゃない」とか「草原の感じ」とかイメージで伝えちゃいます。
本間 昔アレンジしてるとき「夕日が見える感じで」とか「星空の感じで」とか言われたことがあったけど、そういうところからじゃないと生まれてこないものがあるって経験上思ってて、知識とか楽典とかがどうこうじゃなくていいんだよね。音楽を作るときはもっと感覚的でいいと思うし。かっこいいと思うことが別に音に関することじゃなくてもいいの。「最近あの車見てかっこいいと思ったんだよね」とか「最近あそこに旅行に行ったらこんなことがあって」っていう話とかを共有することで生まれてくるものって必ずある。イメージを具現化するのはプロデューサーの役目ですから。新曲は2曲とも効果音の入れ方とかすごく絶妙なバランスだなと思ってて。挿入歌だからって映画に寄り添いすぎても劇伴になっちゃうし。
eill 「プレロマンス」と「フィナーレ。」は絵に色がのっていないときに作ったんですけど、映画が完成したら作品との親和性がすごく高くて。
本間 楽曲が映画の編集とかにも影響したのかもね。
eill 挿入歌の「プレロマンス」は絵を見ながら、起き上がるタイミングとか走るときのテンポとかに合わせて曲を作ったんですよ。
本間 昔『東京ラブストーリー』っていうドラマがあったんですけど、そのなかで主題歌の「ラブストーリーは突然に」がフルコーラス流れるし、いろんなシーンで使用されてるんですよ。作品とタイアップ曲がお互いに高め合ってたみたいな。そういう意味で、今回の2曲はめちゃくちゃ良かったかもね。
eill ありがたいです。
本間 声の倍音の高いところの成分が綺麗に乗っていて、それはどういう処理をしてるの?選んでいるマイクなのか、そういう声の出し方を意識してるのか、今回の2曲を聴いて気になりました。
eill ハイを強めに抜けるようにしているのと、声量があるほうではないのでマイクの距離を近くして、「つ」とか「た」とか細かいニュアンスを大事にして録ってるので、そこをよくキャッチしてくれてるって思いますね。
本間 マイクの距離が近くなるとどうしても低音が強調されがちなんだけど、でも同時に上の音もしっかり録れてるよね。今マイクは何を使ってるの?
eill ソニーの「C-800G/9X」と、「Blue」というメーカーのマイクの2種類を使い分けてます。
本間 「C-800G/9X」がいちばん声の上の部分出せるからね。eillさんの曲はすごくシンプルなんだけど、声がバランス良く配置されてるサウンドだなと思いました。今イマーシブ(※2)なミックスとかあるけど、そういうの意識して作ったりする?
※2…全方位から音が聴取可能な立体音響
eill 「プレロマンス」と「フィナーレ。」の2曲は映画用に5.1chサラウンドの音源を作りました。「フィナーレ。」は映画に寄り添って海辺の電車の音とか波の音、トンネルを走る音とか効果音が入っていて、映画館で聴いたときのことを考えてその音の配置は結構考えました。だからツーミックス(※3)になっちゃうのは寂しかったです。
※3…曲の制作の最終段階でパート毎の多数のトラック(マルチトラック音源)をL+Rのステレオ2チャンネルにミックスダウンすること
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