《関係項―アーチ》2014/2022 作家蔵
2022.09.11 13:00
「もの派」を代表する美術家、李禹煥(リ・ウファン)の大規模回顧展が国立新美術館で8月10日から11月7日まで開催されている。
1936年韓国に生まれ、1956年に来日し、1960年代から作家・批評家としての活動を始めた李禹煥。初期には戦後の日本美術史に大きな影響を及ぼした「もの派」の動向を牽引し、「すべては相互関係のもとにある」という世界観を、平面作品や立体作品の制作だけでなく、『事物から存在へ』(1969)をはじめとする美術論考においても理論的に展開してきた。
2000年代に入ると、李は欧米の各地で活発に個展を開催。鎌倉とパリに拠点を置き、世界的に認められる現代美術家となった。そして、香川県直島の「李禹煥美術館」(2010-)、韓国釜山の「李禹煥空間」(2015-)に続き、3つ目の個人美術館となる「Lee Ufan Arles」を2022年4月にフランスのアルルでオープンするなど、86歳の現在も精力的に活動を続けている。今回の展示は、日本では17年ぶり、東京では初の大規模個展となるものだ。
今回の個展では、「もの派」以前の蛍光塗料を用いて視覚を攪乱させるような効果を喚起する最初期の代表作から、展示会場の壁に本人が直接描いた最新作まで、全61点の作品が屋内外で展示されている。これまで、さまざまな展覧会において自分で構成を組んできた李禹煥だが、今回の展示でも作家自ら構成を考えている。
本展の作家インタビューで、李はその構成について「これまでの活動を脈絡をつけて見せたい」と考え、その上で「彫刻と絵画どちらにも肩入れせず、両面をうまく引き立てるような形で構成した」と語る。実際に、会場内は彫刻と絵画の2セクションに大きく分かれ、彫刻と絵画、それぞれの展開の過程が時系列的に理解できるように展示されている。
彫刻作品の変遷
「もの派」が生まれた1968年頃からの初期彫刻作品から、石やガラス、鉄板などの素材が用いられている。
これらの作品はやがて〈関係項〉シリーズとなり、現在にわたってつくり続けられている。展示では、空間や場の中の「もの」のありようや、「もの」とイメージとの間に生まれる関係性に着目し、追求し続けている李の姿勢を見ることができる。その変遷を辿ってみることで作家の思考や感覚、興味の変化などが伝わってくるはずだ。
「一種の暴力性や否定性、あるいはズレを示すようなトリッキーな作品が、70年代半ばすぎまで続いた」と語る李。既製のガラス板に石を落とすだけ、と、基本的に用いられる素材はほとんど手を加えることなく配置されるのだが、異質な素材が隣り合わせにある状態がどこか不思議で、なおかつ緊張感があるように感じられる。
そして近年になると、〈関係項〉は、特定の場所の特性を活かして作品を置く、サイトスペシフィックな作品が増えていく。特にフランスのラ・トゥーレット修道院で発表された《関係項―棲処(B)》やフランスのヴェルサイユ宮殿で開催された《関係項―アーチ》は、その傾向を象徴するものとなっている。
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