ヒップホップで社会を生き抜く! 第1回
フライング・ロータスとタイラー・ザ・クリエイターから学ぶ「アイディアを実現させる」精神性 
2022.07.02 16:00
Tyler, the CreatorとFlying LotusのYouTubeより
2022.07.02 16:00
ミュージシャンとしてだけではなく、レーベル<Brainfeeder>の代表、そして映画監督としても活躍する凄腕クリエイター、Flying Lotus(フライング・ロータス)。現在、新作映画を制作している最中のフライング・ロータスであるが、そんな彼が2017年に発表した衝撃作『KUSO』が印象に残っている人も多いだろう。『KUSO』はフライング・ロータスが監督を務めた初の映画であり、サンダンス映画祭で上映した際には、あまりのグロテスクさに、観客400人のうちの20人ほどが退館するというエピソードが話題になった。
フライング・ロータスは、アルバム『Cosmogramma』などの作品で、LAのビートシーンで頭角を現した音楽プロデューサーであるが、実は音楽で成功する以前から映画の世界を志していたようだ。彼は学生時代に、LAフィルムアカデミーに通っていたが、その経験を「捨てた」ことにより、映画をつくることができたと、『No Film School』のポッドキャストにて明かしている。
フライング・ロータス:私は映画学校に通ったけど、映画学校の産物ではない。映画学校に通ったが、自分に満足できなかった。学校に通って、色々学ぶ以前のほうが、面白いアイディアをたくさん持っていたんだ。でも学校では私が表現したいことに対する「理由」が間違えていると言われた。例えば、私は単に「クールだから」という理由で作りたいときもあったけど、「クールだからという理由じゃ足りない、もっとちゃんとした理由が必要」って言われるんだ。もしかしたら、私が間違えた解釈の仕方をしてしまったのかもしれない。しかし「こうしないといけない」という聖書のようなガイドラインがあって、その教えを忘れるのに何年もかかった。
一般的に公開されている映画をつくりたいという原動力ではなく、自分にとって「クール」なアイディアを実現したいという原動力で映画をつくりたかったと語ったフライング・ロータス。映画学校では「このようにしないといけない」というルールを感じた彼は、自身の表現ができないと感じたようだ。しかし彼はまた自分の感覚を取り戻したと語っている。
フライング・ロータス:「こうしないといけない!」ってのがあるから、似たような映画ばかりなんだ。でも本当はセオリー通りじゃなくてもいいはずなんだ。「KUSO」は自分の音楽制作と同じように、本当にフリーフォームで作ることができた。
私の友達であり、音楽と映画どちらも作っているMr. Oizo(Quentin Dupieux)がインスピレーションとなった。彼は「音楽と同じように映画作ってみたら?」って言ってくれたんだ。今ではその感覚がわかる。私は音楽を作るとき、何をするか全く検討がついていないんだ。椅子に座って、色々実験してみたら、車輪が回りはじめて何かができる。たまに事前にアイディアがあったりするけど。そうやってKUSOを作った。映画の脚本を書くときでも、どこに行くかわかんないし、どこに行くかわかってなくてもいいんだ。
音楽と同じように、映像もフリーフォームで作るようになったと彼は明かした。<Edbanger Records>や<Brainfeeder>からもリリースしている彼の友人、Mr. Oizoの助言がインスピレーションになったようだ。さらに彼はこのインタビューにおける最も重要な部分をこのように語った。
フライング・ロータス:重要なのは「待ちすぎない」ことだ。自分にできない言い訳を言い聞かせて、アイディアを実行しないというのが一番危険だ。アイディアを実行しない理由というのは、探せば何百万個も見つけることができる。椅子に座って「準備ができていない」とか言って、実現させない理由を探してしまう。「◯◯の経験がない」とか「◯◯がないとできない」って理由を挙げるだけで一日潰せる。そうやって、底のない自己不信に陥るまで考えてしまう。映画だとその現象に陥ったりすることが多かったけど、今はそれを抜け出してワクワクすることを前に進めているよ。
自分に「言い訳」を言い、アイディアを実行しないことの危険さについて語ったフライング・ロータス。その現象によって、何も前に進められない人も多いだろう。これは映像制作や音楽制作に限ったことではなく、このような「できない理由」を自身に言い聞かせることにより、アイディアを実現できなかったという経験をしたことがある人もいるのではないだろうか?
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