2026.04.02 18:00
2026.04.02 18:00
虹郎くんの声の普段から良さはわかっていた
──アレンジについてはAJICOでもご一緒されていた荒木正比呂さんの貢献が大きかったようですね。
AJICOのEP『ラヴの元型』も、荒木くんと鈴木正人くんが参加してくれたことで令和のAJICOが形になったと思います。『NEWME』での荒木くんとのコンビネーションは奇跡のようで、何より彼のデモの類稀なセンスが、私のなかの文学的な要素を発動させたり、私が大切にしたい清らかさを素直に引っ張り出してくれたと思います。たとえば2曲目の「Mood」という曲も、サウンドの構想自体、荒木くんのサウンドスケッチ的なデモから得られたイメージを膨らませたものでした。90年代を思わせるようなメロディと、リリックにおけるONENESSというキーワードが、いまの自分がポップ回帰する上でとっかかりやすい一体感になったんです。

──ONENESSとは、単一性、唯一性を指し、宇宙、自然、人々を含む万物が根源的に「一つにつながっている」という世界観や概念を表す言葉でもあります。
年を重ね、子どもの成長も見てきたいまの自分の切望する意識に、ONENESSという言葉がしっくりきていて。でも、それってロジックとしては語れても、リスナーと共有するのは容易くないじゃないですか。とは言え、スピリチュアルなムードで書いちゃうとポップじゃなくなる気がするし。だから、ちょっとセクシーな彩りをつけつつ、一聴すると男女のあれこれみたいにも聴こえるようにして。
──そして、それが「Mood」のリリック「羊水の海になれ」という行につながって。
私は地球を俯瞰で眺めるようにイメージしようと努めるんですが、地球ってEarth(地面、陸地)と呼ぶ割には、実際は蒼くて、お水の星として映ると思うんですね。空が青いこともやっぱり水の色であって。私たち平気でトイレで水を流したり、洗剤使って洗ったり、下水としても流れる。でも、その水は太古の昔からずっと巡り巡っているわけで、この惑星の中でずっと変わらず水を利用しているわけでしょ。新しい水が宇宙から飛んでくるわけじゃない。そのずっと同じ水が循環しているという意味では、その“羊水”も海から来ていると言えるわけですよね。海と“産み”をかけてもいて。そんなイメージで書きました。これは坂本教授とコラボレーションした「Twilight Before Sunrise」でも同じでした。
──自伝によると3曲目の「Happy」は14歳の息子さんからの「シンプルにハッピーについて書けばいいじゃん?」という言葉から生まれたそうですが。息子さん、なかなか芯を食ったことを言いますね。
彼はいつも面白い視点を持っていて、しかも冷静なんですよ。最初は「何でママの歌は歌詞を変えるの?」と言ってきた。要は、どうして同じメロディなのにどんどん言葉が変わるの?という疑問で。確かに「言われてみれば何でだっけ?」と思って(苦笑)。
──リリックの「梅干し」「お出汁」「御御御付け」「お味噌汁」というワードもいいですね。
はい、やっとここまでこれました(笑)。お茶の間感や生活臭というのは、自分にとってひとつのハードルで、22年に「お茶」という歌詞を書いたんだけど、あのときは結局おしゃれにまとめちゃったかなと。昔の私ならメンタル的に使えるワードじゃなかったけど、この曲でちょっと高いハードルを飛べたような気がしています(笑)。トラックの展開もリピートする心地よさになっているので、サビは極力歌詞を変えないようにしました。
──そして、「ただいま望むのは 今を生きている懐かしさなの」というくだりは、UAというアーティストの根幹を表しているような言葉だと思いました。
うれしい。私のなかでもここは決め手。自分でも歌うたびにグッと来るものがあります。個人としての“I”ではなく、大いなる“We”としての私を表す上でも上手いこと書けたと思っていて。こちらは吉野弘さんの、パートナーシップについて書かれた『祝婚歌』という詩から影響を受けています。
──続く「ZOMBIE feat. 村上虹郎」には息子の虹郎さんが参加されています。
実は突発的な成り行きでした。そもそもこの曲は2020年の段階から断片的なデモがあったんですが、80年代的メロディやコード感にポップな可能性を感じて曲に発展させてもらいました。その中で荒木くんと、「間奏で男性の声が入るといいね」という話になって、数名の男性ボーカリストにオファーしたのですが、それぞれスケジュールや心情的に難航してしまったんです。制作時間のリミットが差し迫る中、最後の望みのようにして、虹郎くんに持ちかけてみたら、大変軽やかに「いいよ!」って引き受けてくれて(笑)彼が歌ってくれると決まった途端、私もバーッとイメージがリニューアルされて、歌詞も書き直しました。
──彼の映画の現場を見学したことがありますが、めちゃいい声ですよね。
そうなの! それはわかっていたんです。結構普段から鼻歌を歌うタイプでね、あと、昨年の夏に勢いで、彼と一緒に親友やその仲間とカラオケに行ったこともあったんです。この曲に虹郎くんが参加してくれたおかげで、スタッフもすごく盛り上がってくれて、何より曲のポップ度がアップデートされましたね。
──この曲、MVもすごい映像で。
以前から監督の水野キャベジくんのファンだったんです。最初に知ったのはVaundyさんの「東京フラッシュ」のMVでした。シンプルだけどコンセプチュアルで、ちょっとギミックのある感じが大変好みで。今回は彼が今やりたいことをそのまま思い切りやってみてほしいと丸投げでお願いしました。
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