2026.02.21 17:00
2026.02.21 17:00
悲しい感情もちゃんと味わえるようになった
──ロケ地の下北沢は藤原さんにとってどんな場所ですか?
下北沢自体はよく行くんですよね。最近も下北沢の劇団員の役をドラマで演じていて(ドラマ『未来のムスコ』)、『結局珈琲』のあとも下北沢で撮影があったりしたので、空き時間にこはぜ珈琲でコーヒー買って帰ってくるみたいなことも(笑)。なんだろうな、新しいと古き良きが混在している面白い場所に今なってますね。
それこそ店長役の柄本(時生)さんは実家が下北の方なので、そういう人はまた違う感覚があるのかもしれないんですけど。歩いてる人達も古着だったり、思い思いのファッションを楽しんでるし、他にはない独特な雰囲気のある場所で。最近は海外の人もたくさんいますし、私自身は今の下北もすごい好きですね。

──街の気配を実感していることは役にリアリティを持たせる結果になりましたか?
そうですね。旧こはぜ珈琲には、年中ずっとハロウィンの飾りつけがしてあるんですよ。どういうこと?って感じなんですけど(笑)、それは店長がハロウィンが好きだかららしいです。おもしろいな〜と思いながら撮影中も眺めてましたね。
閉店間際だったのもあって今まで来たお客さんや常連さんの写真が壁に貼ってあったり。ここを愛してる人たちがたくさんいて、そういう場所で演技するのはやっぱり感慨深いものがありました。
撮影の前日にこはぜ珈琲で本読みがあったんですけど、その日が最後の営業日だったんですよ。常連の人たちが最後の最後の時間まで残ってくれてて、店長がコメントを求められて、みたいなやり取りがあって(笑)、それを見た上で撮影に臨んだのも良かったですね。あと撮影中にも続々とお客さんがやってきて、「やってないんですか?」「もう無くなっちゃうんですよ」という件が何度もあったので、臨場感たっぷりに仕上がったのかなと思います。

──あとは舞台的なセリフだったりもして、その面白さもありました。
確かにこのポスターからちょっとノスタルジックで、エモな感じの映画を(笑)想像されてる方がすごい多くて、予想に反したのか「思った以上に笑いました」と言われることがすごく多いですね。
──曽我部恵一さんが歌うエンディングの「エンディング」という曲がまた良くて。
そのまんまを歌ってる曲だと思うんですけど、曽我部さんもこはぜ珈琲と縁があって、店長に頼まれて一筆書きのように書いてくださったという話を聞きました。すごくこの映画の最後にふさわしいというか、ぴったりだなって思いました。

──映画の終わりがそのまま下北沢の街に繋がっていくようでしたね。音楽活動についてもお伺いしたいんですが、前作『wood mood』に続いて新作『uku』も石若駿さんのプロデュースです。アルバムのビジョンはいつ頃どういうふうに出てきましたか?
前作の『wood mood』の時はすごい悩んでた時期に作ったアルバムでした。自分が思考の中に迷い込んでいる様子を森に喩えて作ったアルバムだったんですけど、それをリリースし終えてお休みをもらったときに、どんどん自分の思考が紐解かれていったんですね。頭で考えてることが自分自身だって思ってたんですけど、そうじゃなくてどうやらまた別のところに本体の自分がいるらしいってことに気づいたんですよ。
思考で作り出した自分は自分じゃなくて、例えばもっと感覚的に辛い物食べたら辛いとか、好きなものを食べたらおいしいって思うのと同じように、これがやりたいとかこれをやってる時の自分が好きだとか、頭じゃなくて体で感じる部分の方が本当の自分なんだなってことに気づき出して。
頭で考えてた『wood mood』から2年弱を経て、森を抜けビーチにたどり着いたというか。今までは自分をいろんなものから守るために厚着をしていたような気持ちだったんですけど、もうそれを脱ぎ捨てて、傷つくかもしれないし肌寒いかもしれないけど薄着になって、自分の今悲しいとか怖い、嬉しいとか楽しいとちゃんと向き合いたいと思えるようになって。それを音楽に昇華したいなと思って作りましたね。
──そう思えた具体的なきっかけはあったんですか?
いっぱいあるんですけど、2ヵ月ぐらいお休みをもらって海外に行ったんですよね。
──エッセイ拝読しました(「さくらのひとやすみ」)。
ありがとうございます! その2ヵ月で本当に自分は何がやりたいんだろうとかどういうことがやりたいんだろうっていうのをあんまり考えすぎずに感じようと思って。「don’t think, feel」みたいなことと近いと思うんですけど、それってがむしゃらに「もっとこうなりたい」って追い求めすぎたり、過去を振り返ったりしてると鈍くなってくると思って。携帯をずっと見てるんじゃなくて、今目の前にある景色はその時にしか見れないわけだから、ボーッとその景色を見るとか、目の前に現れた人と話してみるとか、そういうことを意識せずにできた時間になって。そこら辺からすごくいい感じに歯車が回り出したというか。

もちろん波はあって、帰ってきてから落ち込んだり「できないかも」ってしんどかった時期もあって、ライブするのが怖いとか思ってたんですけど、その感情をちゃんと味わおうと思うようになって。今までは「そんなことを考えちゃだめだ。だって私は音楽をやりに東京に来てて好きなものなんだから!」と言い聞かせるふうにやってたんですけど、やりたくない日もあるだろうというか(笑)、それにちゃんと賛同して心の中の自分の話を聞いてみたら「そりゃ怖いよな、久々のワンマンなんだから。人前に出て歌うって結構ヤバいことだし緊張してて当たり前じゃん」と思えたら逆にすごいラクになったんです。映画『インサイド・ヘッド』に近いんですけど(笑)、悲しいのは排除しなきゃ!じゃなくて、こんな悲しいこともあるということを味わえるようになってからラクになりました。
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