2025.11.19 18:00
2025.11.19 18:00
笑顔に擬音なんてつかないことくらいわかっているけど、それでも彼女が笑うと、キラキラという音まで聴こえてきそうな気がする。
芳根京子、28歳。今年最もタフに活躍した女優の一人と呼んでいいだろう。上半期は『まどか26歳、研修医やってます!』『波うららかに、めおと日和』と2クール連続で主演。さらに舞台『先生の背中』でも重要な役を務め、大車輪の1年を締めくくるように、主演映画『君の顔では泣けない』では同級生の水村まなみと体が入れ替わってしまった坂平陸を繊細に演じ抜いた。
取材現場でも、秒刻みのスケジュールに追われながら、眩しい笑顔を振りまく。そんな彼女も幼い頃は内向的で引っ込み思案だったという。何が芳根京子を強くさせているのか。
デビューから12年。輝きを増す芳根京子の笑顔の源を探った。

髙橋さんと一緒に戦えて心強かった
──本作に出演したいと思ったいちばんのポイントはどこだったのでしょうか。
台本を読ませていただいて私の想像していた入れ替わりとまた違うタイプの作品だったんです。入れ替わり自体、難しい役ではあるのですが、これはさらに輪をかけて難しいだろうなと感じました。けれど、だからこそやってみたいとも思ったんです。この作品を演じきった自分がどうなっているのか、その先に何が見えるのかが知りたくて、お受けさせていただこうと決めました。
──芳根さんの役名は、坂平陸。陸を演じるアプローチは、どのようなものでしたか?
髙橋(海人)さんや坂下(雄一郎)監督とお話しさせていただく中で、今この時代にこのような作品を演じさせていただくにあたって、どこからのラインが男性で……みたいなことはないんじゃないかなという話になったんです。そこから私も気持ちが軽くなって。大切なのは、外側ではなく内面。どういう気持ちで陸として今ここにいるのかを、一つひとつ丁寧にすくっていけたらと考えるようになりました。
──それはつまり、陸の外見や仕草からつくろうとか、そういうことではないということですね。
それよりも気持ちがちゃんとついてくるかどうかかなと考えていました。心の中で役をつくっていれば、自然とそれが仕草に出る。お芝居としては、少し賭けな部分ではあったのですが、思い切って振り切ってみることにしました。
──先日行われたジャパンプレミアで「動きを足すのではなく、引き算だと」というふうにおっしゃったのも、今のお話につながるところでしょうか。
そうですね。本当にどこかにこういう人たちがいるかもしれない、と。ファンタジーではあるのですが、リアルさを追求したいなと思いました。

──ただ、内面にアプローチしていくといっても、15年の入れ替わりものというのは他に例を見ないですし、もちろん経験している人もいないわけで。自分の体ではない体で過ごす15年とはなかなか想像できるものではありません。
ひと口で15年と言っても、二人が過ごしたのは15歳から30歳という、人生の中でいろいろなイベントがある15年。だからこそ、すごく難しいなと思いました。中でもいちばん大きかったのは、結婚と出産です。あのとき、もう陸は後戻りできないと覚悟を決めたと思います。自分自身の15年を振り返ると、15年前は13歳。今とはまったく違いますよね。自分に置き換えると15年の月日の長さに言葉が出ないというか。自分だったらと考えるのも辛かったです。
──入れ替わりに対するリアクションは、陸とまなみでそれぞれ違って。表面的には、陸のほうが事態を受け入れられず苛立っているように見えました。
陸は感情をストレートに出す人で、まなみは一旦受け止めて頭で処理してから言葉にするタイプだと思います。その性格の違いが、いい対比になればいいなとは考えていました。陸はまっすぐで不器用だけれどそこが憎めないところでもある。自分の気持ちを言葉にするのが苦手な陸を、まなみがしょうがないなって受け入れるような、そういう人物像にしたいなと思いました。

──もちろんそれぞれ別の役を演じるわけですが、体が入れ替わっているという関係上、髙橋さんと一緒に役をつくっているような感覚があるのかなと見ていて思いました。
私は髙橋さんを演じるわけではなく、髙橋さんも芳根京子を演じるわけではないのですが、この辛さや苦しさ、もどかしさを共感できるのは髙橋さんだったという同志みたいなものはあったかもしれません。同じことで悩み、同じ壁にぶつかっている人がいるんだと思うだけでも心強かったですし、取材で何度か髙橋さんとお話をさせていただいく機会もあったのですが、そのたびに「一緒に戦ったよね」という話になりました。
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